銀行融資の審査で最重要の「返済財源」。その計算式、銀行の視点、そして多くの経営者が陥る「勘違い」まで、資金繰りの専門家が徹底解説します。

銀行が融資審査で「返済財源」を最重要視する理由

「銀行融資を申し込みたい」と考えたとき、
多くの経営者が
「うちは黒字だから大丈夫だろう」
「売上は伸びている」
といった点をアピールしようとします。

しかし、銀行は「黒字=返済できる」とは考えていません。

銀行の最大の関心事は、ただ一つ。

貸したお金が、利息とともに確実に返ってくるか
です。

会計上は黒字でも、手元の現金(キャッシュ)がなければ返済はできません。
例えば、売上が急増しても、そのすべてが「売掛金(未回収の代金)」であれば、お金は入ってきていないのです。これは俗に「勘定合って銭足らず」と呼ばれ、黒字倒産の最大の原因です。

銀行は、このリスクを誰よりも知っています。

だからこそ、銀行は「利益」という会計上の数字だけでなく、
返済の元手となるお金(キャッシュ)が、この会社には本当に生み出されているのか?」を厳しくチェックします。

そのための指標が「返済財源」なのです。

銀行融資の「返済財源」の基本計算式

では、銀行はその「返済財源」をどのように計算しているのでしょうか。

銀行が融資審査の「目安」として、まず間違いなく使う基本的な計算式があります。それは以下の通りです。

基本的な計算式: 返済財源 = 税引後当期純利益 + 減価償却費

この計算式は、決算書(損益計算書:P/L)があれば誰でも計算できます。

なぜ「減価償却費」を足すのか?

ここで多くの方が疑問に思うのが、「なぜ費用である減価償却費を足すのか?」という点です。

減価償却費とは、例えば500万円の機械(耐用年数5年と仮定)を買った場合、その購入費用500万円を5年間に分けて「毎年100万円ずつ」P/Lの費用として計上する会計ルールです。

重要なのは、この「毎年100万円」の費用は、実際にはお金(キャッシュ)が出ていっていないということです。お金は1年目に機械購入時に500万円全額を支払っていますが、2年目以降は帳簿上の費用として計上されるだけで、キャッシュは減りません。

これを「非現金支出費用」と呼びます。

例えば、ある会社の税引後当期純利益が「0円(トントン)」だったとします。 しかし、その年に減価償却費を500万円計上していた場合、銀行はこう考えます。

「利益は0円だが、実際にはお金が出ていかない費用(減価償却費)が500万円ある。つまり、この会社の手元には最低でも500万円のキャッシュが残っているはずだ

この「税引後当期純利益 + 減価償却費」は、会社が本業で生み出した簡易的なキャッシュフローを示すため、銀行審査では「簡易キャッシュフロー(フリーキャッシュフロー)」とも呼ばれます。

【最重要】あなたの会社は大丈夫?返済能力の具体的な計算方法

前述の計算式は、返済財源の「総額」を見ただけにすぎません。銀行が次に行うのは、「その総額で、年間の返済を本当にまかなえるのか?」という比較です。

銀行は、決算書の「貸借対照表(B/S)」を見て、あなたの会社が抱えている既存の借入金の”年間”返済額を必ずチェックします。 (※場合によっては、B/Sの流動負債にある「1年以内返済予定の長期借入金」という科目を使います)

そして、以下のロジックで審査します。

銀行の審査ロジック: (税引後当期純利益 + 減価償却費) ≧ 年間元本返済額

この式が
「≧(イコール以上)」であれば「返済能力あり」、
もし、
「<(未満)」であれば「返済財源が不足している」と判断されます。

📊 シミュレーションで見る審査の可否

具体的な数字で見てみましょう。

A社:返済能力あり(OK)

  • 税引後当期純利益: 500万円
  • 減価償却費: 300万円
  • 既存の年間元本返済額: 600万円

計算: (500万 + 300万) = 返済財源 800万円
判定: 返済財源 800万円 > 年間返済額 600万円
→ 銀行は「この会社は年間600万円を返済しても、まだ200万円の余力がある。堅実だ」と評価します。

B社:返済財源が不足(NG)

  • 税引後当期純利益: 200万円
  • 減価償却費: 300万円
  • 既存の年間元本返済額: 600万円

計算: (200万 + 300万) = 返済財源 500万円
判定: 返済財源 500万円 < 年間返済額 600万円
→ 銀行は「この会社は、返済財源が500万円しかないのに年間600万円を返済している。このままでは100万円が毎年不足する(=赤字)」と判断します。

B社がこの状態で「新たに500万円の融資を受けたい」と言っても、審査通過は極めて困難です。「既存の返済すらまかなえていないのに、さらに借入を増やしてどう返済するのですか?」と問われます。

この場合、B社は「来期はコスト削減と新商品の投入で、利益を最低でもプラス100万円以上改善します」という、具体的な数字の根拠が入った事業計画書を提出できなければ、交渉のテーブルにすらつけません。

【実践編】資金使途(融資の種類)によって「返済財源」の考え方は異なる

ここまでは「長期の借入」を前提とした基本的な話です。 しかし、融資には様々な種類があり、銀行は「融資の使い道(資金使途)」によって、返済財源の定義を使い分けています。

これは実務上、非常に重要なポイントです。

パターン1:設備資金・長期運転資金(返済期間1年超)

  • 概要: 工場の機械購入、店舗の内装工事、システム開発、事業拡大に伴う恒常的な運転資金など。
  • 返済財源: 「税引後当期純利益 + 減価償却費」
  • 銀行の視点: これが王道パターンです。投資した設備や人材が将来にわたって利益を生み出し、その利益(+減価償却費)から長期間(例:5年~10年)かけて返済してもらいます。

パターン2:つなぎ資金(短期)

  • 概要: 大きな案件を受注したが、材料費や外注費の支払いが先で、入金が数ヶ月後になる場合。
  • 返済財源: 将来の「確定的な入金」
  • 銀行の視点: この場合、銀行は「利益+減価償却費」をほとんど見ません。見るのは「その入金は本当に確定しているか?」です。
  • 例えば、建設業で「3ヶ月後に公共事業の工事代金1,000万円が入金される」という契約書があれば、それが返済財源となります。利益が赤字でも、この契約書が担保となり融資が実行されるケースは多々あります。

パターン3:季節資金・賞与資金・納税資金(短期)

  • 概要: 特定の時期にだけ必要な資金。
    • 季節資金:アパレル業の冬物コートの仕入れ、お中元・お歳暮商戦の仕入れなど。
    • 賞与資金・納税資金:ボーナスや法人税の支払い。
  • 返済財源: 将来の「入金見込み」
  • 銀行の視点: これはパターン2(つなぎ資金)と似ていますが、「入金が確定していない」点が異なります。
  • 例えば、アパレル業が6月にコートの仕入れ資金を借りる場合、銀行は「10月~12月の冬物商戦で売上が立ち、1月までに入金される」という過去の実績と今年の販売計画を見て、それを返済財源とみなします。

パターン4:経常運転資金(短期継続融資・短コロ)

  • 概要: 事業を回し続けるために、常に必要なお金。
  • 返済財源: 「なし」(事業が続く限り必要なお金)
  • 銀行の視点: 多くの経営者が誤解している点です。あなたの会社が事業を続ける限り、「売掛金(未回収)」や「在庫」は必ず発生します。その立替金が「経常運転資金」です。
  • 例えば、常に売掛金が1,000万円、在庫が500万円ある会社は、1,500万円が常に寝ている(キャッシュ化されていない)状態です。この1,500万円は、事業をやめない限り回収できません。
  • そのため、銀行はこの資金を「返済する必要がない資金」とみなし、「短期継続融資(通称:短コロ)」という形で提供します。これは1年などの短期で契約しますが、返済期日が来たら、ほぼ同額で次の1年間の契約に更新(ロールオーバー)していくのが一般的です。

【事例】

以前、ある製造業のA社長から「銀行から『短期の借入(短コロ)を返済してくれ』と言われて困っている」と相談を受けました。決算書を見ると、売上は堅調ですが、利益は横ばい。

銀行の担当者に理由を聞くと、「経常運転資金(売掛金+在庫)は5,000万円なのに、短期借入が7,000万円ある。差額の2,000万円は使途不明(赤字補填や不要な投資)なので減らしてほしい」とのことでした。

A社長は「短コロは返さなくていいもの」と認識していましたが、銀行は「必要な経常運転資金の枠を超えた分は返済すべき」と判断したのです。

このように、資金使途と返済財源のロジックがずれると、銀行との信頼関係が一気に崩れることがあります。

銀行融資で経営者が陥る「2つの罠」

ここまでが銀行審査の基本です。しかし、多くの経営者が「理屈はわかるが、うまくいかない」と感じるのは、これから説明する「2つの罠」に陥っているからです。これは私が現場で最も多く目にする失敗例です。

罠1:金利(%)ばかり気にして「返済期間」を軽視する

経営者であれば金利を気にするのは当然です。しかし、金利(例:1%と2%の差)に執着するあまり、もっと重要なことを見落とすケースが後を絶ちません。

それは「返済期間」です。

例えば、1,000万円の設備投資の融資で、2つの銀行から提案を受けたとします。

  • A銀行: 金利 1% / 返済期間 5年
  • B銀行: 金利 2% / 返済期間 10年

一見、金利が半分のA銀行が魅力的に見えます。しかし、**資金繰り(キャッシュフロー)**の観点から見ると、これは真逆です。

それぞれの年間「元本」返済額を見てみましょう。(※簡略化のため元本のみで比較)

  • A銀行(5年返済):
    • 年間元本返済額: 1,000万円 ÷ 5年 = 200万円
  • B銀行(10年返済):
    • 年間元本返済額: 1,000万円 ÷ 10年 = 100万円

A銀行を選ぶと、B銀行の2倍の返済額が毎年発生します。

あなたの会社の「利益+減価償却費」が年間150万円だとしたら、A銀行では50万円の返済財源不足(赤字)ですが、B銀行なら50万円の余力(黒字)が生まれます。

金利は「費用(P/L)」ですが、元本返済は「キャッシュ(B/S)」の流出です。
金利を年間1%(10万円)節約するために、毎年100万円のキャッシュアウトを増やすのは、多くの場合、賢明な判断とは言えません。

結論:資金繰りを安定させるには、「金利の低さ」より「返済期間の長さ(=毎月のキャッシュアウトの少なさ)」を優先すべきです。

金利にこだわり過ぎないことです。

(※設備投資の場合、銀行は「法定耐用年数」を返済期間の上限目安とします。耐用年数7年の機械なら7年、など。これを無視して10年返済などを希望しても通りません)

罠2:「利益+減価償却費」という計算式を鵜呑みにする

これが最も本質的な罠です。 記事の冒頭で「返済財源 = 利益 + 減価償却費」と説明しました。しかし、これは銀行審査の入口の「目安」にすぎません。

本当の返済財源は、P/L(損益計算書)上の計算ではなく、「お金(現預金)」そのものです。

「利益+減価償却費」の計算で800万円の返済財源があったとしても、手元の預金通帳に50万円しか残っていなければ、600万円の返済は不可能です。

「利益+減価償却費」と「実際の手元キャッシュ」の差額は、どこに消えたのでしょうか? それは、P/L(損益)には表れない、B/S(財産)の変動で使われているからです。

  • 売掛金が増えた(売上は立ったが、入金がまだ)
  • 在庫が増えた(仕入れたが、売れていない)
  • (返済財源に含まれない)別の借入を返済した(例:社長からの借入返済など)
  • 税金を払った
  • 設備投資の頭金を払った

銀行は、P/Lで「利益+減価償却費」を確認した後、必ずB/Sと「資金繰り表」を見て、「この会社は、なぜ利益が出ているのにお金が増えていないんだ?」という「本当のお金の動き」を突き止めようとします。

【事例】

あるIT系企業B社は、毎年安定して2,000万円の利益(返済財源)があり、銀行評価も上々でした。しかしある年、新規融資が突然ストップしました。

原因は「売掛金」でした。

B社は、ある大手企業との取引が決まり、売上が倍増しました。しかし、その入金サイト(支払い条件)が「3ヶ月後」だったのです。

決算書上は「売上倍増・利益も増加」でしたが、B/Sを見ると「売掛金が異常に急増」し、手元のキャッシュはむしろ減っていました。

銀行は「利益は出ているが、キャッシュの回収ができていない。このままでは資金ショートする」と判断し、融資を停止したのです。

このように、P/Lだけを見て「返済財源は十分だ」と考えるのは非常に危険です。

銀行からの信頼を高め、返済財源を確保する3つの方法

では、銀行に「返済能力がある」と正しく評価してもらうためには、どうすればよいでしょうか。以下の3つの行動が不可欠です。

1. 月次決算書(試算表)を速く・正確に作成する

銀行は「過去(1年前の決算書)」よりも「今(先月の経営状況)」を知りたがっています。

多くの会社が、決算書は税理士に任せきりで、月次の試算表は3ヶ月遅れ、という状態です。これでは銀行も「今の返済能力」を判断できません。

理想は「翌月15~20営業日までに、前月の試算表を提出できる」体制です。

これができるだけで、「この会社は、自社の経営数字をリアルタイムで把握している。管理体制がしっかりした会社だ」という非常に高い評価を得られます。

むしろ対銀行ということだけではなく、経営者は自社の経営数字をリアルタイムに把握しなければなりません。

2. 「事業計画書」で根拠ある未来を示す

特に設備資金の融資(パターン1)では、事業計画書は必須です。

ここで重要なのは、「売上が伸びます」といった曖昧なスローガンではなく、「その設備投資が、どう利益を生み、返済財源(利益+減価償却費)をどれだけ増加させるか」を具体的な数字で示すことです。

  • 投資額: 1,000万円(返済期間5年:年間返済200万円)
  • 計画: この機械導入で生産性が上がり、外注費が年間300万円削減できる。
  • 根拠: 300万円(利益増) > 200万円(返済額) = 返済可能

非常に簡潔に書いてますが、このように、返済財源が年間返済額を上回る計画を、ロジカルに説明する必要があります。

3. 銀行と定期的にコミュニケーションをとる

銀行との関係で最悪なのは、「業績が悪い時に、黙って隠すこと」です。

銀行は、融資先の業績悪化の兆候をいち早く掴もうとしています。隠していても、試算表や預金口座の動きでいずれ必ずバレます。そして「悪い情報を隠す会社=信頼できない」というレッテルを貼られます。

業績が良い時も悪い時も、こちらから先に「今月はこういう理由で少し苦しいですが、こう対策します」と報告・相談する。

当たり前のようですが、これができる経営者は驚くほど少ないです。逆にこれができると、銀行との信頼関係が生まれます。

日頃から信頼関係を築いておくことが、いざという時に「返済財源が一時的に不足しても、この社長なら大丈夫だろう」という支援(リスケジュールや追加融資)を引き出す最大の鍵となります。

まとめ:返済財源の本質は「キャッシュ創出力」

銀行融資の審査における「返済財源」について解説しました。

  1. 基本式: 返済財源 = 利益 + 減価償却費
  2. 審査基準: 返済財源 ≧ 年間元本返済額
  3. 罠: 「金利」より「返済期間」を重視すべき
  4. 本質: 本当の返済財源は「手元のキャッシュ(お金)」そのもの

「利益+減価償却費」という計算式は、あくまで銀行審査の入口にすぎません。

銀行が最終的に見ているのは、あなたの事業が「将来にわたって、返済のためのお金(キャッシュ)を生み出し続けられるか」という本質的な「キャッシュ創出力」です。

そのためにも、返済期間はできるだけ長く設定し(借り換え交渉も含む)、P/Lの利益だけでなく、B/Sの手元のキャッシュを厚く保つことを最優先する。これが、銀行と良好な関係を築き、安定した経営を実現する唯一の道です。

「銀行融資の返済財源」に関するよくある質問(FAQ)

(Q1) 赤字決算だと、返済財源がないと見なされ、絶対に融資は受けられませんか?

(A1) いいえ、赤字の理由によります。例えば、役員退職金の支払い、先行投資(採用費・広告費)、災害による一時的な損失など、「一過性の赤字」であり、来期以降のV字回復を事業計画で合理的に説明できれば、融資可能な場合はあります。 また、創業1年目などの計画的な赤字も考慮されます。ただし、「慢性的・構造的な赤字(売上不振や高コスト体質)」の場合は非常に困難です。

(Q2) 減価償却費がありません(無形資産のみ、リース契約など)。どう計算されますか?

(A2) その場合、返済財源の計算式は「税引後当期純利益」のみとなります。そのため、減価償却費がある会社よりも、多くの利益を確保しなければ返済財源が不足すると見なされます。 特にリース費用は、減価償却費と異なり、毎月「実際のキャッシュアウト」を伴う費用(賃料)ですので、返済財源には加算されません。

(Q3) 「利益+減価償却費」はクリアしていますが、銀行審査に落ちました。なぜですか?

(A3) 本文で解説した「罠2」の可能性が非常に高いです。P/L上は返済財源があっても、B/S上で売掛金や在庫が急増し、手元キャッシュが減っている(=営業キャッシュフローがマイナス)場合、銀行は「資金繰りが悪化している」と判断します。 その他、代表者個人の信用情報(ローンの延滞など)、事業の将来性(市場が縮小している業界など)が懸念された可能性もあります。

(Q4) 返済財源を増やすため、すぐにできることは何ですか?

(A4) 短期的な対策は「コスト削減(固定費・変動費の見直し)による利益確保」です。中長期的な対策は「既存借入の返済期間の長期化(借り換え交渉)」と「粗利率の改善(値上げ・原価低減)」、「売掛金の早期回収」です。 まずは現状のキャッシュフローを正確に把握するため、顧問税理士や我々のような資金繰り専門家に相談し、自社の「本当の返済能力」を診断してもらうことを強く推奨します。