『資金繰り表作成&活用マニュアル』

「また担当が変わるのか。せっかく自社の事業内容を理解してもらえたと思ったのに……」

年商数億円規模の企業の経営者様から、このような嘆きをよく耳にします。
確かに、銀行の担当者は早ければ2年、長くても3〜4年で転勤や異動になります。「コロコロ変わる」と感じるのも無理はありません。

しかし、長年多くの中小企業の財務支援を行ってきた私の経験から申し上げますと、
担当者の交代は、経営者にとって「リスク」ではなく、むしろ過去のしがらみをリセットし、新たな融資を引き出す「最大のチャンス」です。

本記事では、なぜ銀行員は頻繁に異動するのかという「銀行の論理」を紐解きながら、新任担当者を味方につけ、御社の財務戦略を有利に進めるための具体的な「逆引き継ぎ」ノウハウを公開します。


なぜ銀行員は2〜3年で異動するのか?知っておくべき「銀行の論理」

銀行員が短期間で異動する背景には、一般企業とは異なる特殊な事情があります。彼らが「冷たい」わけではなく、組織の仕組み上、そうせざるを得ない理由があるのです。

1.不正と癒着の防止(コンプライアンス)

これが最大の理由です。特定の企業と担当者が長期間密接な関係になると、どうしても情が移ります。最悪の場合、本来貸すべきではない案件で融資を通したり、横領などの不正に繋がったりするリスクが生じます。
銀行は「お金」という信用そのものを扱う場所です。定期的な人事異動は、組織の健全性を保つための「防犯システム」であるとご理解ください。

2.人材育成

銀行は将来の幹部候補に対し、様々な業種、規模、地域の企業を担当させようとします。
「都心のIT企業」と「地方の製造業」では、融資判断のポイントが全く異なるからです。 もし、御社に若手の担当者がついた場合、それは御社が「銀行員を育てるのに適した、優良かつ学びのある企業」だと評価されている可能性もあります。

3.支店やエリアの戦略変更

これはあまり表に出てきませんが、支店自体の統廃合やエリア戦略の見直しにより、担当エリアが再編されることがあります。
最近ではDX化に伴い、小規模事業者向けには「担当者を置かない(コールセンター対応)」というケースも増えていますが、年商1億円を超えてくる企業であれば、引き続き対面担当者がつくケースが大半でしょう。


担当変更は「ピンチ」か「チャンス」か?

「前の担当者はあんなに良くしてくれたのに」 そう思う気持ちは分かりますが、ビジネスにおいて感傷は禁物です。
コンサルタントとして多くの現場を見てきましたが、担当変更を機に「融資条件が劇的に改善した事例」は多くあります。

【実録】「塩漬け案件」が新担当者で動いた話

(※守秘義務のため、業種や地域、数値を一部加工しています)

事例:北関東の金属加工業A社(年商3億円)

A社長は、工場の設備老朽化に悩んでいました。
しかし、当時の銀行担当者(ベテラン)は、「今の業績では追加融資は厳しい。まずは借入の圧縮を」の一点張り。保守的な担当者との関係は冷え込み、A社長も半ば諦めていました。

そんな中、4月の人事異動で担当者が入行5年目の若手に変わりました。A社長は私のアドバイス通り、まだ「NO」と言っていない新担当者に対し、過去の経緯は伏せて、ゼロベースで事業計画を熱心にプレゼンしました。

結果どうなったか。 その若手担当者は「支店長に掛け合ってみます!」と奔走し、なんと2週間で5,000万円の設備資金調達に成功したのです。

なぜ成功したのか?
新任担当者、特に若手は「自分の手で新規の実績を作りたい」という強烈なモチベーションを持っています。
前任者が「できない」と判断した案件でも、新任者が新たな視点(あるいは実績作りへの執念)で光を当てれば、「できる」に変わるのです。

このように、担当変更は「過去のネガティブな判断(貸し渋りなど)」をリセットできる絶好のタイミングなのです。


銀行任せにしない!主導権を握る「引き継ぎ」資料の作り方

ここからが本記事の核となる部分です。

通常、銀行内部での引き継ぎは、書類上のデータとわずか数日の同行訪問で行われます。はっきり申し上げますが、銀行の内部引き継ぎだけで、御社の魅力や強みが100%伝わることは絶対にありません。

そこで推奨しているのが、経営者側から新担当者に渡す「自己紹介資料(カンパニー・プロファイル)」の作成です。

決算書(定量情報)には載らない、御社の「定性情報」をA4用紙1〜2枚にまとめて手渡すのです。

1.「逆引き継ぎ資料」に盛り込むべき4つの要素

社長ご自身で作成できるよう、必須項目を整理しました。

  • ① 自社の「商流(ビジネスモデル)」図解
    • 銀行員は「どこから仕入れ、どう加工し、誰に売って、いつ入金されるか」というお金の流れ(商流)を気にします。これを簡単な図にするだけで、彼らの理解スピードは段違いに上がります。
  • ② 決算書に見えない「強み」の言語化
    • 「技術力が高い」では伝わりません。「〇〇という特許技術により、他社より2割安く製造できる」「〇〇業界の大手3社と10年以上の口座がある」など、具体的な事実を記載します。
  • ③ 社長個人の経歴とビジョン
    • 中小企業融資は、最終的に「社長の人柄」で決まります。創業の思いや、過去の苦境をどう乗り越えたかというストーリーは、稟議書(銀行内で融資を通すための書類)の「備考欄」を埋める貴重な材料になります。
  • ④ 今期の見通し(良い情報も悪い情報も)
    • 直近の受注状況や、懸念されるリスク(原材料高騰など)を正直に書きます。特にリスク情報を先に開示することで、「この社長は経営状況を正確に把握している」という信頼(格付け上の定性評価)に繋がります。

2.渡すタイミングとキラーフレーズ

新担当者が着任挨拶に来た時がベストです。名刺交換の後、こう切り出してください。

「〇〇さん、これからよろしくお願いします。 前任の方からも引き継ぎは受けていると思いますが、 私の方でも、〇〇さんが早く当社のことを理解して、仕事がしやすくなるように資料をまとめておきました。 一度目を通していただけますか?」

これを渡されて嫌な顔をする銀行員はいません。むしろ、「稟議書を書く手間が省ける」「この会社は管理能力が高い」と、内心ガッツポーズをするはずです。これが「銀行員を味方につける」ということです。


タイプ別・新担当者の攻略法(トリセツ)

やってくる担当者のタイプによって、付き合い方を変えるのも経営者の腕の見せ所です。

パターンA:熱意ある「若手・新人」タイプ

  • 特徴: 知識や経験は不足しているが、行動力があり、上司からの評価を欲している。
  • 攻略法: 「育ての親」になってください。
    • 「分からないことがあれば何でも聞いて」と懐を開く。
    • 難しい案件の時は「支店長代理(上司)の方にも同席してもらって、一緒に知恵を借りたい」と誘導し、若手の顔を立てつつ、決定権のある上司を巻き込む。

パターンB:論理的な「ベテラン・出世頭」タイプ

  • 特徴: 知識豊富で審査眼が鋭い。無駄を嫌い、リスク管理に厳しい。
  • 攻略法: 「数字」と「ロジック」で対話してください。
    • 夢やビジョンよりも、「なぜその投資が利益を生むのか」「返済財源は何か」を具体的数値で示す。
    • 前述の「引き継ぎ資料」が最も効果を発揮するタイプです。

パターンC:相性が悪い「ハズレ(?)」タイプ

  • 特徴: 連絡が遅い、話が通じない、高圧的。
  • 攻略法: 「戦わずして勝つ」こと。
    • 感情的に対立すると、御社の「要注意先」フラグが立ちかねません。
    • 明らかに実害がある場合(融資審査が止まっている等)は、支店長や副支店長へアポイントを取り、「担当の〇〇さんは大変お忙しいようなので…」と、あくまで相手を気遣う体裁で相談を持ちかけます。

担当者が「来なくなった」時

担当変更の後、足が遠のいたと感じたら要注意です。

それは単なる忙しさではなく、銀行内での御社の格付けが下がり、「積極的な営業対象外(融資回収フェーズ)」に分類された可能性があります。

  • チェックリスト
    • 3ヶ月以上、連絡がない。
    • 融資の提案(プロパー融資など)がなくなり、保証協会付き融資ばかり勧められる。
    • 金利の引き上げを打診された。

もしこれらに該当する場合、待っていてはいけません。
すぐにこちらからアポイントを取り、試算表を持って支店を訪問してください。「うちはいつでも情報を開示できる」という姿勢を見せることが、信頼回復の第一歩です。


まとめ:変化を恐れず、銀行を「使い倒す」経営者へ

銀行の担当者が変わることは、避けられない年中行事です。
しかし、それを「面倒だ」と捉えるか、「新しいパートナーと出会う好機」と捉えるかで、その後の資金調達力には雲泥の差が生まれます。

今回ご紹介した「引き継ぎ資料」を作成し、新担当者との初動を制することで、御社の財務体質はより強固なものになるはずです。銀行は「借りてくれ」と言ってくる時には貸してくれませんが、こちらが万全の準備をして「借りてもいいよ」という姿勢でいると、向こうから寄ってくるものです。

変化を恐れず、ぜひ銀行を良きパートナーとして経営に邁進してください。