「今期の決算は黒字だったのに、なぜか手元の現金がどんどん減っていく……」
もしあなたがそう感じているなら、それは**「黒字倒産」**の危険信号かもしれません。
帳簿上の「利益」と、銀行口座の「現金」はまったくの別物です。このズレを放置すると、会社は健康なのに倒れてしまうという最悪の事態を招きます。
本記事は、長年企業の資金繰りを見てきた資金繰り改善コンサルタントの知見に基づき、あなたがこの問題を解決できるよう書かれています。
このページを読むことで、あなたは以下のことができるようになります。
- 現金流出の真の原因を4つのフェーズに分けて特定できる
- 自社の危機度を測るチェックリストを手に入れ、どこに問題があるか自己診断できる
- 原因に応じた具体的な資金繰り改善アクションを即座に実行できる
お金の不安を解消し、本業に専念できるように、まずは以下のステップで会社の「現金」の健康状態をチェックしましょう。

1. はじめに:利益(PL)と現金(CF)はなぜ一致しないのか?
企業会計の基本原則である**「発生主義」**と**「現金主義」**の違いが、この問題の根本原因です。
- 利益(PL / 損益計算書): 商品を販売(発生)した時点、サービスを提供(発生)した時点で売上と費用を計上します。実際にお金が入金されていなくても「利益」として計上されます。「発生主義」
- 現金(CF / キャッシュフロー): 銀行口座への入金と、口座からの出金があった時点でのみ増減します。「現金主義」
このタイムラグやルール(経費にならない支出の有無)によって、利益が出ているのに現金が減るという現象、すなわち**「資金ショート」**が発生するのです。
なぜ売上増が逆に現金を減らすのか?
成長期の会社でよく起こるのが、「売上が伸びているのに資金繰りが苦しい」という状態です。これは主に運転資金の増加によって起こります。
売上が伸びると、通常、以下の資産が増加します。
- 売掛金(入金待ちのお金): 売上増に伴い、回収前の入金待ちが増える
- 棚卸資産(在庫): 次の売上に備え、仕入れ(現金支出)が増える
- 買掛金(仕入や外注先への支払):売掛金の入金よりも前に支払をしなくてはいけないケースが多い
つまり、売上増加分のお金が、現金ではなく「売掛金」や「在庫」というモノに姿を変えて会社の中に滞留している状態です。
売上 ↑ → 売掛金 ↑ + 在庫 ↑ → 現金 ↓
2. 【最重要】現金流出の「原因」を特定するチェックリスト(4つのフェーズ)
売上があるのに現金が減る原因は、大きく分けて以下の4つのフェーズに分類されます。あなたの会社は、どのフェーズで現金を減っているかチェックしてください。
フェーズ1:営業活動CFのチェック(本業の資金滞留)
本業で得たはずの現金を「資産」という形で会社内に寝かせている状態です。
| チェック項目 | YES / NO | 具体的なチェック事項 | 対策の緊急度 |
| 1. 売掛金(入金待ち)の増加 | 前年比で売掛金の残高が大幅に増えていませんか? 未回収の売掛金が残っていませんか? 取引先の回収サイト(支払いまでの日数)が長すぎませんか? | 高 | |
| 2. 在庫(棚卸資産)の過剰 | 季節商品や旧型商品の不良在庫が増えていませんか? 仕入れや製造のサイクルが適切ですか? | 中 | |
| 3. 買掛金・未払金(支払い)の減少 | 仕入れ先への支払いを急ぎすぎたり、支払いサイトを短縮されたりしていませんか? | 低~中 | |
| 4. 売掛金の未回収・貸し倒れ | 経営不安のある取引先への売上が増加していませんか? 未回収の売掛金が残っていませんか? | 高 |
コンサル事例(製造業B社):
過去3年、売上は右肩上がりで利益も出ていましたが、現預金は減少傾向。調べると、大手取引先との取引拡大で売掛金が2倍に増えていました(回収サイト90日)。売上増に伴い仕入れ(現金支払い)は先行しているため、支払が先行する買掛金が過剰に増加し、資金繰りを圧迫していました。
フェーズ2:投資活動CFのチェック(攻めの現金流出)
将来の利益のために現金を使っている(投資)か、不必要な現金流出が発生している状態です。
| チェック項目 | YES/NO | 具体的なチェック事項 | 策の緊急度 |
| 5. 過大な設備投資の実施 | 今期、工場や店舗の拡張、大型設備の導入など、多額の現金支出を伴う投資をしていませんか? | 中 | |
| 6. 回収見込みの薄い資金の流出 | 役員や関係会社への貸付金、資金使途の不明な仮払金が長期滞留していませんか?(これらは本業の売上につながりません) | 高 | |
| 7. 不要な固定資産の保有 | 経営に活用していない土地や建物、古い機械などをそのまま保有していませんか? | 低~中 |
コンサル事例(サービス業C社):
新規事業立ち上げのため、オフィスの移転や内装に大金をかけました。これは会計上は「資産」として減価償却されますが、現預金は一気に出ていきます。利益以上の大きな投資(設備投資)は、その投資を回収するまでの期間、現預金を減らし続ける最大の要因です。
フェーズ3:財務活動CFのチェック(借入の返済負担)
利益が出ているかに関わらず、過去の借入金の元本返済がキャッシュを圧迫している状態です。
| チェック項目 | YES/NO | 具体的なチェック事項 | 策の緊急度 |
| 8. 借入金の元本返済額の増大 | 毎月の銀行からの借入金の元本返済額が、月次利益(+減価償却費)を上回っていませんか?(元本返済はPLの経費ではありません) | 高 | |
| 9. 金融機関との関係性 | 必要時にすぐに相談できるメインバンクとの関係を日頃から関係構築していますか? | 中 |
コンサル事例(小売業D社):
過去の赤字を乗り越え、現在は安定して月次利益を出していました。しかし、利益額が月50万円程度に対し、借入金の元本返済が月70万円。この毎月20万円のギャップが、利益を食いつぶし、現金をジワジワと減らしていました。この状況は「借入金のリスケジュール(返済額の調整)」で解決しました。
フェーズ4:その他(一時的なズレ)
| チェック項目 | YES/NO | 具体的なチェック事項 | 策の緊急度 |
| 10. 納税資金の一時的な負担 | 法人税や消費税など、納税額が大きい時期と重なっていませんか?(前期の利益が大きいと今期の納税負担は重くなります) | 中 |
3. 原因別:資金繰りを改善するための即効性アクション
上記の10のチェックリストで原因が特定できたら、次は具体的なアクションです。即効性の高いものから順に実行に移しましょう。
| 特定原因 | 改善アクション | 詳細 |
| 売掛金の増加 | 回収サイトの短縮交渉 | ・新規取引先には支払い条件の厳格化を(回収サイトを短くする) ・既存取引先には納品ロットの見直しなどで短期回収を交渉する |
| 売掛金の増加 | ファクタリングの活用 | ・売掛金を売却し、即座に現金化する。高額な手数料はかかるが、資金ショート回避には最も即効性がある。 ※一時的に利用する。依存しないようにする |
| 在庫の過剰 | 在庫回転率の把握と適正化 | 「在庫回転率=売上原価÷平均在庫額」を計算し、数値の悪い(滞留している)商品を特定し、処分(特売等)する。 |
| 支払いサイトの短縮 | 買掛金の支払いサイト延長交渉 | 仕入先・外注先に、支払いを**「回収サイトより遅く」**なるよう交渉する(ただし信用低下リスクに注意)。 |
【大原則】入りは多く早く、出は少なく遅く
【根本解決】財務活動CFの改善
**最も現金を減らしているのが「借入金元本返済」**であるケースが多いため、ここが根本解決の鍵になります。
- 金融機関への借換えやリスケジュール交渉
- 借入金の本数が多い場合には、一本化して毎月の元本返済額が少なくできないか相談する
- 借入金の元本返済額を一時的、または恒久的に減額してもらうようメインバンクに相談する。利息のみの支払いにしてもらうことで、まずは手元の現預金を確保する。
- 運転資金分の短期借入金の依頼
- 運転資金(売掛金や在庫増加分)を補うために、短期借入を依頼する。健全な成長期にあると判断されれば、金融機関も積極的に支援してくれます。
- 資産の現金化
- 使っていない土地、建物、古い機械などの固定資産(遊休資産)を売却し、キャッシュに替える。
- 不良在庫を売却し、キャッシュに替える
- 投資有価証券を売却し、キャッシュに替える
- 保険積立金を解約し、解約返戻金をもらう
4. 黒字倒産を回避するための日常的な資金管理
問題を繰り返さないために、日々の管理体制を構築しましょう。
必須ツール:「資金繰り表」の作成と運用
「資金繰り表」とは、利益の計算ではなく、将来の**「現預金の入金・出金」のみを記載した表です。最低でも3ヶ月~6ヶ月先、1年先までの現預金の増減を予測し、管理することが重要です。
| 資金繰り表のチェック項目 | |
| 売掛金回収の確実な日付 | 予測ではなく、実際の入金予定日を記入する。 |
| 借入金元本返済日 | 毎月の確定した返済額を借入明細をもとに記入する。 |
| 納税額の積み立て | 大きな納税(法人税、消費税)に備え、毎月積み立てる形で流出計画に含める。 |
| 現預金残高の最低水準 | 最低でも月商の1.5ヶ月分を維持できているか確認する。 |
重要な指標:経常収支を常に意識する
企業の真の現金創出力は、資金繰り表の「経常収支(本業による現預金収支)」で分かります。
- 経常収支がマイナス:本業で現預金を稼げていない、あるいは運転資金として現預金が滞留している状態であり、非常に危険です。
- 経常収支がプラス:本業が黒字で、その結果、順調に現預金が増えている証拠です。
PLの利益が出ていても経常収支がマイナスであれば、それは**「黒字倒産」への第一歩**だと認識し、本記事のチェックリストに基づき、直ちに原因を特定し、対策を実行してください。
まとめ
売上があるのに現預金が減る現象は、会計の仕組みと経営活動のズレが原因です。
不安を感じたら、すぐにこのページのチェックリストを開き、**「営業」「投資」「財務」**のどのフェーズに問題があるかを特定してください。
特に、売掛金・在庫の過剰と借入金元本返済の負担は、多くの黒字企業を苦しめる主要因です。
原因を特定し、即座にアクションを起こせば、資金ショートの危機は必ず回避できます。貴社の健全な成長を、資金繰り管理の側面から心より応援しております。