『資金繰り表作成&活用マニュアル』

企業の成長フェーズにおいて、金融機関は単なる「お金の貸し手」ではありません。

売上が3億、5億と拡大し、10億円の大台が見えてくる時期、
社長の悩みは「借りられるか」から「いかに効率よく、安定的にキャッシュを回すか」へと変化するはずです。

本記事では、数多くの資金繰り改善現場に立ち会ってきた財務アドバイザーの視点から、御社のパートナーとなる金融機関の選び方を解説します。

1.「格付け」だけで選ばない。中小企業が知っておくべき3つの役割

多くの社長が「金利が安いからメガバンク」「付き合いがあるから信金」と安易に決めがちですが、年商規模に応じて金融機関には明確な「使い分け」が必要です。

① メガバンク:対外的な「信用力」

売上が5億円を超えてくると、メガバンクとの取引は「看板」として機能します。しかし、彼らの審査はスコアリング重視であり、一度業績が傾くと手のひらを返すスピードも速いのが現実。

ポイント: メガバンクは「決済用・対外信用 用」と割り切り、融資の全額を依存しないのが鉄則です。

② 地方銀行(第一・第二):融資の「メインエンジン」

年商1億〜10億円規模の主戦場です。プロパー融資(保証協会を通さない融資)をいかに引き出すかが勝負となります。地銀選びのポイントは、「御社の業界に詳しい担当者がいるか」が大事です。

③ 信用金庫・信用組合:最後の「防波堤」

万が一、赤字転落や資金繰り悪化に陥った際、最後まで並走してくれるのは信金です。金利は地銀より若干高めですが、それは「付き合い料」だと割り切るべきです。


2.財務アドバイザーが教える「選ぶべき銀行・担当者」

※守秘義務の関係上、具体的な名称は伏せますが、実際にあった事例をベースに構成しています。

銀行の「やる気」を見極める3つのサイン

  1. 「格付け」の根拠を説明してくれるか
    優秀な担当者は「今の御社の格付けは〇〇です。あと自己資本比率が3%上がれば、金利を0.2%下げられます」と、改善の道筋を提示します。
  2. 決算書の「中身」を深掘りしてくるか
    表面的な数字だけでなく、在庫の回転率や取引先の傾向について質問してくる担当者は、行内審査で「戦ってくれる」担当者です。
  3. プロパー融資の提案があるか
    「保証協会付き」ばかり勧めてくる銀行は、リスクを取る気がありません。売上3億円を超えたら、プロパー融資の打診がない銀行はメインから外すべきです。

事例:ある製造業(年商6億円)のケース

長年A銀行をメインにしていたが、コロナ禍での追加融資に消極的だった。そこで、B地銀に打診したところ、担当者が現場まで足を運び、機械の稼働率を精査。結果、B地銀がプロパーで全額肩代わりし、資金繰りが劇的に改善した。


3.なぜ「1行取引」は年商数億の社長にとって致命的なリスクなのか

多くの経営者が
「手続きが面倒」
「付き合いが長いから」
という理由で、
1つの銀行に全ての融資と決済を集約しています。
しかし、10億円規模を目指すステージにおいて、1行取引は「自社の首根っこを他人に預けている」状態と同じです。

①断られたときのリスク

景気が悪化した際や、御社の業績が一時的に赤字に転落した際、1行取引だと「他行という逃げ道」がありません。メインバンクが「これ以上の融資は難しい」と判断した瞬間、即座に資金ショートのカウントダウンが始まります。

仮説: 複数取引がある場合、メイン行が支援を継続していれば、他行も「メインが貸しているなら」と追加融資に応じる可能性が高まります。

②相手の言い値を受け入れる

比較対象、他行との交渉がないため、金利や手数料、担保設定において銀行側の言い値を受け入れるしかなくなります。

  • 金利の硬直化: 競合がいなければ、銀行はリスクを取って金利を下げる動機がありません。
  • 過剰な担保拘束: 1行取引では、社長個人の資産や工場の土地建物など、全ての担保をその銀行が独占してしまい、将来的な柔軟な資金調達を阻害します。

③担当者の「異動」という不確定要素

1行取引のリスクは、銀行の経営状態だけではありません。「御社を深く理解してくれていた担当者」が異動し、後任が事務的な人物になった瞬間、融資のハードルが跳ね上がることがあります。

実務のアドバイス: 2行目、3行目を作っておくことは、担当者の「当たり外れ」に対する分散投資でもあるのです。


4.資金繰りを悪化させないための「銀行ポートフォリオ」

10億円規模までの理想の体制は以下の通りです。

年商規模取引行数取引金融機関1回で受けられる運転資金額の目安
3億円以内3行第二地方銀行、
信用金庫、
日本公庫(国民生活事業)
2,500万円以内
3~5億円以内4行第一地方銀行、
第二地方銀行、
信用金庫、
日本公庫(国民生活事業)
2,500~4,500万円
5~7億円以内5行第一地方銀行、
第二地方銀行、
信用金庫、
商工中金
日本公庫(中小企業事業)
4,500~6,500万円
7~10億円以内6行第一地方銀行(2行)
第二地方銀行、
信用金庫、
商工中金
日本公庫(中小企業事業)
6,000~8,000万円
10億円以上6行~メガバンク、
第一地方銀行(2行)
第二地方銀行、
信用金庫、
商工中金
日本公庫(中小企業事業)
8,500万円~

※日本財務力支援協会のテキストより抜粋

なぜ複数を使い分けるのか?

銀行も競合がいなければ、条件を提示しません。
「他行さんはこの金利で、これだけの期間を提示してくれています」という事実があるだけで、交渉力は格段に上がります。


5.【経営者必見】銀行に「選ばれる」ための逆転の発想

金融機関を選ぶ立場であると同時に、社長は「選ばれる立場」でもあります。

  • 試算表、資金繰り表を毎月提出する:
    これだけで「管理能力が高い会社」と見なされ、格付けが上がります。
  • 悪い情報ほど先に伝える:
    資金がショートしそうになってから相談するのは最悪のタイミングです。「3ヶ月後に足りなくなる予兆がある」と早期に相談することで、銀行側の「救済枠」を確保しやすくなります。

6.よくある質問(FAQ)

Q. ネット銀行をメインにしても大丈夫ですか?

A. 振込手数料の削減には有効ですが、1億以上の融資や「顔の見える交渉」が必要な中小企業には不向きです。サブ機として活用しましょう。

Q. 担当者と相性が悪い時はどうすべき?

A. 銀行の支店長宛に、冷静に「もっと自社の事業を深く理解してくれる方と組みたい」とリクエストするのは正当な権利です。それで態度が悪くなるような銀行なら、早急にメインを切り替えるべきです。

Q. 創業融資からずっと同じ信金。変えるのは裏切りですか?

A. 銀行側もビジネスです。成長に合わせて最適な資金調達手段を選ぶのは経営者の責任です。感謝を示しつつ、預金の一部を残すなどの配慮をすれば、角は立ちません。


7.まとめ:次の一手

金融機関選びの失敗は、そのまま「黒字倒産のリスク」に直結します。今のメインバンクに少しでも不安を感じるなら、まずは「他行の担当者の話を聞いてみる」ことから始めてください。

私がお手伝いできること:

  • 御社の現在の決算書を拝見し、「今後の金融機関戦略」を診断します。
  • 銀行交渉を有利に進めるための「資金繰り表の作成・ブラッシュアップ」をサポートします。

「今の銀行で本当にいいのか?」というその違和感を、具体的な財務戦略へと落とし込んでいきましょう。

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