『資金繰り表作成&活用マニュアル』

「なぜ、うちの会社は融資を断られたのか?」

「業績は悪くないはずなのに、銀行の反応が鈍い……」

資金調達に悩む経営者の方から、こうした相談を日々受けます。

実は、銀行が融資を断る理由の9割は、銀行業界の共通言語である「融資の5原則」のいずれかに抵触していることに起因します。

私は長年、財務コンサルタントとして、数多くの決算書と経営者を見てきました。
その経験から断言できるのは、「銀行員が何を見ているか(=5原則)」を知り、それに合わせた対策をしてあげるだけで、融資の可決率は変わるということです。

この記事では、教科書的な5原則の解説にとどまらず、
「銀行が貸したくなる企業」になるための具体的な数値基準や、
現代の金融トレンド(事業性評価)を踏まえた対策について、現場の事例(※守秘義務のため一部改変)を交えて解説します。


融資の5原則とは?銀行員が審査で使う「共通言語」

銀行員は、新入行員研修で必ずこの「融資の5原則」を叩き込まれます。彼らが稟議書(融資の申請書)を書く際、この5つの視点すべてにおいて「問題なし」あるいは「懸念はあるがカバーできる」と論証しなければ、上司のハンコは貰えません。

つまり、経営者であるあなたがこの5つを理解しておくことは、銀行員に「稟議書を書きやすくさせる材料」を渡すことと同義なのです。

  1. 公共性(社会的に正しい事業か)
  2. 安全性(貸した金が確実に返ってくるか)
  3. 収益性(企業・銀行双方に利益があるか)
  4. 成長性(将来伸びる余地があるか)
  5. 流動性(資金繰りは円滑か)

それぞれの原則について、現場では具体的にどこを見ているのか、深掘りしていきましょう。


【最重要】安全性の原則:銀行は「返済確実性」をこう見る

5原則の中で、銀行が最も重視するのが「安全性」です。

銀行が貸し出すお金の原資は、預金者から預かった大切なお金です。だからこそ、銀行は化したお金を絶対に返してもらわないといけないのです。

銀行が見ている2つの「安全性指標」

私がコンサルティングの現場で必ずチェックするのは、以下の2つの数字です。

1. 自己資本比率(利益の積み増し)

「総資産のうち、これまでの利益の積み増しがどれくらいあるか」を示します。

  • 危険水準: 10%未満(または債務超過)
  • 合格ライン: 20%〜30%
  • 優良水準: 40%以上

以前、年商10億円規模の建設業A社の支援に入った際、利益は出ていましたが自己資本比率が5%という薄氷の状態でした。銀行は「少しの赤字で債務超過に転落するリスク」を恐れます。
このケースでは、役員借入金の資本金組入れ(DES)を行い、自己資本比率を表面上20%まで引き上げることで、追加融資を引き出すことに成功しました。

2. 債務償還年数(返済能力)

「今のキャッシュフローですべての借金を返すのに何年かかるか」という指標です。

債務償還年数 = (営業利益 + 減価償却費) / (有利子負債 – 所要運転資金)

※銀行によって計算式は多少異なります。

  • 目安: 10年以内であれば安全圏とみなされます。
  • 危険: 15年〜20年を超えると、原則として新規融資は非常に厳しくなります。

経営者が打つべき対策

「安全性」を高めるための特効薬はありません。
節税のために利益を圧縮しすぎず、法人税をしっかり払って、現預金を確保し、「内部留保(利益剰余金)」を積み上げること。これが王道であり、最強の銀行対策です。


収益性の原則:Win-Winの関係構築

銀行も民間企業(株式会社)です。ボランティアではありません。自分たちの収益を当然考えます。
「雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を貸す」と揶揄されますが、これは彼らが「収益性の原則」に従って動いているからです。

1.企業の収益性(返済原資の確保)

銀行は「本業で稼ぐ力」である営業利益を重視します。上記、債務償還年数の計算式では、営業利益が根拠になっていました。
不動産売却益などの特別利益で黒字になっても、評価は限定的です。「本業の儲けで利息と元本を返せるか」が見られています。

2.銀行の収益性(銀行側のメリット)

ここが見落とされがちなポイントです。低金利競争が激化する中、貸出金利だけでは銀行は儲かりません。

「銀行が貸したくなる企業」は、融資以外の取引メリットを提供しています。

  • 従業員の給与振込口座の指定
  • 公共料金や税金の自動引き落とし
  • 外為(海外送金)取引
  • 法人クレジットカードの契約

現場のアドバイス:
金利の引き下げ交渉ばかりしていませんか?「金利は御行の提示通りで構いません。その代わり、定期預金を◯◯万円積みます」といった交換取引(条件)を持ちかける経営者は、銀行員から「わかっている経営者」として一目置かれます。


成長性の原則と「事業性評価」の現在

かつては銀行融資の審査は「過去の決算書の数字」がすべてでしたが、金融庁の方針転換により、現在は「事業性評価(企業の将来性やビジネスモデル)」が重視されるようになっています。

「右肩上がり」だけが成長性ではない

単に売上が伸びているだけでなく、以下のような定性的な要素が評価対象となります。

  • 市場の優位性: ニッチな市場で高いシェアを持っているか。
  • 技術力・ノウハウ: 他社が真似できない独自の強みがあるか。
  • 経営基盤: 後継者が育っているか、従業員の定着率は良いか。
  • 経営計画書の有無
  • 人材育成、採用

【実例】製造業B社のV字回復

業績が横ばいだった関東の部品メーカーB社。決算書の数字は平凡でしたが、社長は「EV(電気自動車)向けの新規部品開発」に注力していました。

私たちは、過去の数字ではなく「今後5年間の事業計画書」と「受注確度リスト」を詳細に作成し、銀行に提出。「この技術が実用化されれば、売上は3年で1.5倍になる」というロジック(成長性)を提示し、設備資金のフルローン獲得に成功しました。

対策: 過去の数字(決算書)は変えられませんが、未来の数字(経営計画書)は作れます。成長性をアピールするには、根拠のある経営計画書が不可欠です。


流動性と公共性:意外な落とし穴

残る2つの原則も、審査の合否を分ける重要な要素です。

流動性の原則(資金の巡り)

銀行のお金(預金)には期限があります。「いつでも引き出せる預金」を原資にしている以上、銀行は「貸したお金がいつ戻ってくるか」を気にします。

  • 期間のミスマッチに注意:よくある失敗が、工場の機械(10年は使うもの)を、金利が安いからといって「短期借入(1年)」で購入してしまうケースです。これは流動性の原則に反します。
    • 運転資金 → 短期融資(手形貸付など)
    • 設備資金 → 長期融資(証書貸付) この「調達期間の最適化」を行うだけで、資金繰りは驚くほど楽になります。

公共性の原則(社会的責任)

銀行融資には「社会の公器」としての側面があります。

  • 基本: 反社会的勢力との関わりがないか、税金を滞納していないか。
  • トレンド: 近年はSDGs(持続可能な開発目標)やESG経営への取り組みが加点要素になります。「地域雇用の維持」「環境配慮型の商品開発」などは、積極的にアピールすべき公共性ポイントです。

「6つ目の原則」経営者の資質が審査を左右する

最後に、教科書には載っていない、しかし現場では決定的な「6つ目の原則」と言えるものをお伝えします。

それは、「経営者の資質(熱意と計数管理能力)」です。

決算書の数値がボーダーライン上の時、最後に審査を通すのは「支店長の推し」であり、その根拠となるのが経営者自身の言葉です。
結局、審査する側も人です。その人=担当者、支店長が、この人=経営者に貸したいと思えるかどうか、その熱意が経営者から伝わってくるかどうか、も非常に重要なことです。

銀行員が見ている「ダメな経営者」のサイン

  • 「数字のことは税理士に任せているから」と言って、自社の試算表を説明できない。
  • 「とにかく金が必要なんだ」と、資金使途(使い道)が曖昧。
  • 悪い情報を隠そうとする(誠実さの欠如)。

逆に、自社の課題を正直に話し、「そのために◯◯円必要で、こうやって返済します」と自分の言葉で語れる経営者には、銀行員も「なんとかして貸したい」と知恵を絞ってくれるものです。


銀行融資に関するよくある質問 (FAQ)

ここでは、私が普段アドバイスさせていただく中で頻出する質問にお答えします。

Q1. 赤字決算ですが、融資の5原則を満たせば借りられますか?

A. 可能です。「安全性」が傷んでいても「成長性」と「計画」でカバーします。

赤字=融資不可ではありません。ただし、「なぜ赤字になったのか(一過性か構造的か)」と「どうやって黒字にするか」の具体的根拠(経営改善計画書)が必要です。この計画に納得感があれば、融資(またはリスケジュール中の新規融資)は降ります。

Q2. 5原則の中で、創業融資において最も重要なのはどれですか?

A. 「成長性」と「自己資金(安全性)」のバランスです。

実績(過去の収益性)がない創業時は、事業計画の実現可能性(成長性)が見られます。同時に、「本気度」を測る指標として、どれだけ自分で元手を用意したか(自己資金=安全性)が厳しくチェックされます。

Q3. メインバンクを変えたいのですが、5原則への影響はありますか?

A. 新規行にとっては「収益性・成長性」のチャンスと映ります。

他行からの借り換え(肩代わり)は、銀行にとって貸出残高を一気に増やせるチャンスです。業績が良い企業であれば、5原則の「収益性(銀行側のメリット)」を武器に、より好条件を引き出す交渉材料になります。


まとめ:5原則を理解して「話せる経営者」になろう

融資の5原則は、銀行員を縛るルールであると同時に、経営者が自社の健康状態を測るバロメーターでもあります。

  1. 公共性: 社会に必要とされているか?
  2. 安全性: 潰れない財務体質か?(自己資本比率・償還年数)
  3. 収益性: 本業で稼げているか?銀行にもメリットがあるか?
  4. 成長性: 未来のビジョンと根拠(計画書)はあるか?
  5. 流動性: お金の調達と運用の期間は合っているか?

銀行との面談に向かう前に、ぜひ一度、この5つの視点で自社の決算書を見直してみてください。もし「安全性に自信がない」と思えば、それをカバーする「成長性」の資料を用意すればいいのです。

銀行員と同じ言語(5原則)で話せる経営者になれば、銀行は単なる「金貸し」から、あなたの事業を支える強力な「パートナー」へと変わるはずです。


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