「決算書は黒字なのに、なぜか融資を断られてしまった…」
「銀行の担当者から『今回は総合的に判断した結果…』と言われたが、何が足りないのか分からない…」
企業の資金繰り改善のサポートをしていると、多くの経営者様からこのようなご相談を受けます。その原因のほとんどは、銀行が最も重視する「お金の流れ(キャッシュフロー)」を明確に伝えられていないことにあります。
決算書だけでは、会社の本当の支払い能力は見えません。銀行は、貸したお金を計画通りに返済してくれるかどうか、つまり「未来の現金(キャッシュ)」を何よりも知りたがっているのです。
この記事では、長年、数多くの中小企業の資金繰りを改善し、融資実行をサポートしてきた財務コンサルタントの視点から、銀行の融資審査を通過するための「資金繰り表」の作り方を徹底的に解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたは銀行が納得する資金繰り表を作成できるようになり、資金調達の成功率を格段に引き上げることができるでしょう。

なぜ銀行融資に「決算書」だけでなく「資金繰り表」が必要なのか?
多くの経営者様が「利益が出ていれば問題ないだろう」と考えがちですが、会計上の「利益」と手元にある「現金」は必ずしも一致しません。実はこれこそが、「黒字倒産」の原因となるのです。
例えば、100万円の商品が掛取引で売れた場合、会計上は100万円の「売上(利益)」が計上されます。しかし、その代金が2ヶ月後に入金されるのであれば、手元の現預金はすぐには増えません。その間に仕入代金や人件費の支払いが先に来れば、資金は減少してしまい、最悪の場合ショートしてしまいます。
銀行が融資審査で最も気にするのは、この「現預金の動き」です。
利益が出ていることももちろん重要ですが、それ以上に「毎月の返済日に、きちんと返済できるだけの現預金が手元にあるか?」を厳しくチェックします。
その未来の現金の動きを予測し、返済能力を証明するための唯一無二の書類が「資金繰り表」なのです。
【銀行員はココを見る】融資審査を通過する資金繰り表の3つの重要ポイント
私がこれまでご支援してきた中で、銀行の融資担当者は共通して以下の3つのポイントを見ています。ここを押さえるだけで、資金繰り表の説得力は劇的に変わります。
1. 経常収支(営業キャッシュフロー)が黒字か
これは「本業でキャッシュを稼ぐ力」を示します。経常収支(営業キャッシュフロー)とは、商品の販売やサービスの提供といった本業の活動で、どれだけキャッシュ(現預金)を生み出せているかを示す数字です。これがマイナスだと、「本業で現預金が減り続けている状態」と見なされ、融資は極めて厳しくなります。
もし一時的にマイナスになる場合でも、その理由(先行投資や季節要因など)と、いつ黒字に転換するのかを明確に説明する必要があります。
2. 返済計画との整合性
銀行は、「今回の融資を実行した後、毎月の返済は滞りなく行えるか?」をシミュレーションしています。資金繰り表の財務収支の支出の部に、今回の借入による返済額を組み込んでも、なお今後の現預金の予定推移がプラスで推移することを示す必要があります。
よくある失敗は、希望的観測で売上を高く設定しすぎることです。現実的な売上予測の中で、無理のない返済が可能であることを示しましょう。
3. 計画の実現可能性
資金繰り表に書かれた数字、特に経常収支の収入の予測には、必ず根拠が求められます。なぜ来月は売上が10%増えるのか? なぜ3ヶ月後に大きな入金があるのか?
・「過去の実績(前年同月比)」
・「既に受注済みの案件リスト」
・「引き合いの強い商談リスト」
などをもとに、
★売上計画
★(売上計画を元にした)入金計画
など、
客観的な根拠を補足資料として提示できると、計画の信頼性が一気に高まります。
私が担当したあるIT企業様は、受注確度の高い案件リストを添付したことで、希望額満額の融資に繋がりました。
【ダウンロード可】今すぐ使える!資金繰り表テンプレート(Excel)
まずは、基本的な資金繰り表を実際に作ってみましょう。すぐに使えるシンプルな月次資金繰り表のテンプレートをご用意しました。
[> シンプルな資金繰り表テンプレート(Excel)をダウンロードする]
5ステップで簡単作成!資金繰り表の書き方ガイド
テンプレートを開き、以下の5ステップに沿って作成してみましょう。
- 前月末の現預金残高を記入する
すべての口座の預金残高や手元現金を合計した「前月繰越残高」を記入します。 - 経常収入(営業収入、営業外収入)を予測・記入する
売上の入金予定を記入します。補助金・助成金などの入金、本業以外の収入は「営業外収入」に分けましょう。- Tips: クレジットカード決済の入金サイクル(翌月末など)や、掛取引の入金サイトを正確に反映させることが重要です。
- 経常支出(仕入、人件費、経費)、財務支出(借入返済等)を予測・記入する
仕入、給与、家賃、水道光熱費、リース料、税金の支払、支払利息、そして既存の借入返済など、すべての支払予定を記入します。- Tips: 利益計算には含まれない「借入金の元本返済」は、支出の重要な項目です。忘れずに記入しましょう。また、消費税の支払時期も事前に確認しておきます。
- 収支と翌月繰越残高を計算する
「収入合計 – 支出合計」でその月の収支を計算し、「前月繰越残高 + 当月収支」で「翌月繰越残高」を算出します。 - 6ヶ月〜1年先まで作成する
融資審査では、短期的な視点だけでなく、中期的な返済能力も見ています。最低でも6ヶ月、できれば1年先までの計画を作成しましょう。
【状況別】資金繰り表で銀行に好印象を与えるアピール術
画一的な資金繰り表では、自社の魅力を伝えきれません。会社の状況に合わせた「戦略的な見せ方」が融資の成否を分けます。
ケース1:赤字決算だが、融資を受けたい場合
赤字決算でも、融資の可能性は十分にあります。重要なのは「未来への改善ストーリー」を示すことです。
以前ご支援したWebサービス運営会社様は、ユーザー獲得のための広告宣伝費が先行し、赤字決算でした。しかし、資金繰り表上で「3ヶ月後から広告費を20%削減」「既存ユーザーからの月額課金が安定的に積み上がっていく」という計画を具体的な数字で示しました。その結果、半年後には経常収支(営業キャッシュフロー)が黒字に転換する見込みであることを説明し、事業の将来性を評価され、無事に融資を獲得されました。
ケース2:運転資金がショートしそうな場合
季節商品を扱う小売業のお客様で、夏前の仕入資金が不足しがちという課題がありました。その際、「なぜ、いつ、いくら必要なのか」を明確にすることが鍵となりました。
過去3年間の販売データから「7月と8月に売上がピークを迎え、そのための仕入れが5月に必要になる」ことを証明。そして「このタイミングで〇〇円の資金があれば、仕入ができ、機会損失なく最大売上を確保できる」と、ピンチをチャンスに変えるための前向きな資金需要として説明しました。単なる資金不足の補填ではなく、「成長のための投資」として見せることが重要です。
ケース3:設備投資のための融資を受けたい場合
小規模な食品加工業のお客様が、新しい包装機械を導入したいとのご相談でした。このケースでは、「投資対効果(ROI)」を資金繰り表で示すことが有効です。
「新機械の導入により、製造時間が30%短縮され、残業代が月〇万円削減できる」「生産能力が向上し、これまで断っていた大口の新規受注が可能になり、半年後から売上が月△万円増加する」といった具体的な効果を、支出の減少と収入の増加として資金繰り表に反映させました。これにより、銀行は「この投資は合理的で、返済原資も確保できる」と判断しやすくなります。
資金繰りがマイナスに…そんな時、銀行にどう説明する?
計画を立てても、予期せぬ事態で資金繰りがマイナスになる月が出てくることもあります。その際に最もやってはいけないのは、曖昧な説明でごまかしたり、隠したりすることです。
銀行との信頼関係を損なわないためにも、ネガティブな情報であっても、正直に、かつ論理的に説明することが鉄則です。
- 原因を正直に伝える:
「主要取引先の倒産により、売掛金の回収が不能になった」「コロナ禍の影響で、大型案件の納期が3ヶ月遅延した」など、客観的な事実を伝えます。 - 具体的な対策をセットで提示する:
「他の取引先への営業を強化し、2ヶ月後には売上を回復させる計画です」「役員報酬を一時的に30%カットし、支出を抑えます」など、既に手を打っている改善策を必ずセットで示しましょう。
ネガティブな情報こそ、真摯な姿勢と具体的な再建計画で乗り越えることができます。
まとめ:説得力のある資金繰り表が、未来の資金調達を楽にする
最後に、本記事の要点をまとめます。
- 銀行は「利益」以上に「未来の現預金」を重視しており、その証明資料が「資金繰り表」である。
- 審査では「本業の稼ぐ力」「返済計画との整合性」「計画の実現可能性」が見られている。
- テンプレートを活用し、自社の状況に合わせて「改善ストーリー」や「投資対効果」を戦略的に示すことが重要。
- マイナスになる場合でも、正直な原因説明と具体的な対策をセットで伝えれば、信頼を失うことはない。
資金繰り表の作成は、単なる融資のための作業ではありません。自社の経営状態を客観的に見つめ直し、未来の安定経営に繋げるための重要なプロセスです。
もし、ご自身での作成に不安がある、銀行への説明方法を相談したいという場合は、ぜひ一度、専門家にご相談ください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 資金繰り表とキャッシュフロー計算書の違いは何ですか?
A. 主な違いは「目的」と「形式」です。資金繰り表は「未来」のお金の流れを管理し、銀行融資などに使う社内資料です。一方、キャッシュフロー計算書は「過去」のお金の流れを分析するための決算書類の一つです。
Q2. どのくらいの期間の資金繰り表を作成すれば良いですか?
A. 融資の際には、最低でも6ヶ月分、できれば1年分の作成を求められることが一般的です。特に、返済期間が1年を超える融資の場合は、1年以上の計画が望ましいです。
Q3. 試算表(月次決算書)だけではダメなのでしょうか?
A. 試算表は「利益」を把握するのに優れていますが、「現預金」の動きを正確に把握することはできません。銀行は返済原資となる「現預金」を最も重視するため、資金繰り表の提出が不可欠です。