「銀行から融資を受けたいが、『資金使途』をどう説明すればいいか分からない」
「設備を買うお金と、仕入れに使うお金、どう分ければ?」
「うっかり『資金使途違反』になるのが怖い」

企業の資金繰りを長年サポートしていると、多くの経営者がこの「資金使途(しきんしと)」の説明で悩んでいる場面に出会います。

資金使途とは、シンプルに言えば「借りたお金の使い道」のこと。

銀行融資の審査において、この資金使途は「事業計画」や「財務状況」と並んで、最も重視される項目の一つです。
なぜなら、銀行は「貸したお金が正しく使われ、利益を生み、無事に返済されるか」を厳しく見ているからです。

この記事では、多くの企業の融資実行を支援してきた財務コンサルタントの視点から、銀行が納得する資金使途の分類、審査を通る書き方、そして絶対に避けるべき「資金使途違反」まで、実践的に解説します。


なぜ銀行は「資金使途」をこれほど重視するのか?

私がコンサルティングの現場で必ずお伝えしているのは、「銀行はATMではない」ということです。
彼らはボランティアでお金を貸すのではなく、利息を得て、元本を確実に回収する必要がある「投資家」のような立場なのです。

銀行が資金使途を重視する理由は、主にこの3つのリスクを審査するためです。

1.【最重要】貸したお金が「返済原資」を生むか?

銀行が一番知りたいのは、「貸したお金が、将来の利益(=返済原資)を生み出すか?」です。

  • 良い例(前向きな使途): 「新型機械を導入し、生産性を30%上げて売上を伸ばす」
  • 悪い例(後ろ向きな使途): 「売上につながらない社長の高級車に買い替える」

前向きな使途であれば、銀行は「これなら返済してもらえそうだ」と判断できます。

2. 資金の「流用(転用)」リスクはないか?

次に、申告と違う使い方をされないかを見ています。
特に警戒されるのが、「運転資金」として借りたお金を、実は「赤字の補填」や「個人の借金返済」に使うことです。

これは銀行を騙す行為であり、返済計画そのものが破綻するため、絶対に許されません。

3. 経営者の「計数管理能力」は十分か?

「なぜ、いくら必要なのか」を具体的に説明できるか。
これは、経営者が自社の財務状況をどれだけ把握しているか(=計数管理能力)を示すバロメーターにもなります。

「なんとなく1,000万円くらい」と説明する経営者と、「A社向け仕入で300万、Bの機械購入で700万」と説明する経営者、銀行がどちらを信用するかは明白です。
そして、前者の「なんとなく1,000万円くらい」「とりあえず1,000万円くらい」と説明する経営者が非常に多いのです。

資金使途は2種類だけ!「運転資金」と「設備資金」の正しい分け方

融資申込書には、資金使途を大きく「運転資金」と「設備資金」に分けて記載します。
この分類は非常に重要です。なぜなら、お金の性質によって銀行の審査の仕方や返済期間が全く異なるからです。

① 運転資金:事業を回すための「短期・中期的な」お金

運転資金とは、仕入、人件費、家賃など、日々の営業活動に必要な資金です。銀行は「なぜ今、追加の運転資金が必要なのか?」その理由の妥当性を見ています。
そして、運転資金は以下の5つに大別できます。

  • 経常運転資金(正常運転資金)
    • 概要: 事業を継続する上で恒常的に必要な立替資金(計算式: 売掛金 + 棚卸資産 - 買掛金)。
    • 銀行への説明例: 「売上は順調だが、入金が60日後、支払が30日後のため、そのギャップを埋める経常運転資金として〇〇万円が必要。」
  • 増加運転資金
    • 概要: 売上が急拡大する際に、仕入や人件費が先行して増加するために必要となる資金。
    • 銀行への説明例: 「大手A社との新規取引開始に伴い、売上が前年比130%増の見込み。先行する仕入増加分として〇〇万円を申し込みたい。」(※前向きな理由として最も評価されやすいです)
  • 季節資金
    • 概要: 年末商戦、ボーナス時期、特定の季節(例:アパレルの衣替え)など、一時的に資金需要が増える時期の資金。
    • 銀行への説明例: 「年末の繁忙期に向けた商品仕入が10月〜11月に集中するため、一時的な立替資金として〇〇万円が必要。売上入金(翌年1〜2月)で返済予定。」
  • つなぎ資金
    • 概要: 売上入金の遅れや一時的な支払い集中など、短期的に資金が不足する(ショートする)時期の穴埋め資金。
    • 銀行への説明例: 「大型案件の入金が翌々月になるが、外注費の支払が今月末に集中する。資金繰り表の通り、2ヶ月間のつなぎ資金として〇〇万円が必要。」
  • 赤字補填資金(要注意)
    • 概要: 赤字(営業損失)によって減少した手元資金を補うための資金。
    • 銀行への説明: 「赤字補填」と正直に書くと審査はほぼ通りません。「事業立て直し(リストラ費用、在庫処分費用)」など、黒字化に向けた「前向きな投資」として経営改善計画書と共に説明する必要があります。

② 設備資金:事業を伸ばすための「長期的な」お金

設備資金とは、工場、機械、車両、ソフトウェアなど、長期間(通常1年以上)使用する資産を購入・投資するための資金です。銀行は「その投資が、本当に売上や利益(=返済原資)を生むのか?」を厳しく審査します。

  • 必須の提出書類: 見積書(相見積もりがあれば尚良い)、カタログ

設備投資は、その目的によって以下の3つに分類して説明すると効果的です。

  • 1. 増設投資(事業拡大投資)
    • 概要: 新工場、新店舗、機械や営業所の増設など、事業規模を拡大するための投資。
    • 銀行への説明例: 「EC事業の受注増に対応するため、配送センターを増設する。これにより月間処理能力が1.5倍となり、売上〇〇万円増を見込む。」(※最も評価が高い投資)
  • 2. 更新投資(コスト削減・効率化投資)
    • 概要: 老朽化した機械やシステムの入れ替えなど、既存の生産性や効率を維持・改善するための投資。
    • 銀行への説明例: 「旧型機械を新型に入れ替える。これにより生産効率が20%向上し、人件費と光熱費を年間〇〇万円削減できる。」(※投資対効果を数字で示すことが重要)
  • 3. 企業維持投資(合理化・研究開発投資)
    • 概要: 本社屋の建設・移転、工場移転、新製品開発、基幹システムの導入、試験研究投資など、中長期的な企業基盤を維持・強化するための投資。
    • 銀行への説明例: 「(新製品開発の場合)3年後の収益の柱とするため、新製品Aの開発投資として〇〇万円が必要。開発スケジュールと販売計画は事業計画書の通り。」(※直接的な短期利益が見えにくいため、詳細な事業計画が必須)

【最重要】これが資金使途違反!「うっかり」でも即一括返済のリスク

資金使途違反(目的外使用)は、経営者が思っている以上に深刻な問題です。
これは銀行との信頼関係を根底から覆す行為であり、発覚すれば「詐欺」と見なされても文句は言えません。

資金使途違反がバレた場合のペナルティ

  1. 融資金の一括返済の要求
  2. 新規融資の停止(事実上の取引停止)
  3. (悪質な場合)刑事告訴のリスク

経営者が陥る「うっかり違反」3大パターンと防止策

悪意のある違反(例:借りたお金でギャンブルをする)は論外ですが、私が現場で見てきたのは、経営者に悪意がなくても「うっかり」違反になってしまうケースです。

パターン1:【最頻出】融資実行前に「自己資金で立て替え払い」した

これは本当に多い事例です。

【事例】 ある製造業の社長が、高性能な中古機械が安く出たため、慌てて自己資金で手付金300万円を支払いました。その後、「残金700万円と、立て替えた300万円を合わせた1,000万円」を設備資金として銀行に申し込みました。

結果は「否決」(正確には減額)でした。

銀行融資は「これから買うもの」にしか出ません。すでに支払った300万円は「過去の支払い」であり、資金使途が消滅しています。銀行から見れば、これは「設備資金」ではなく「(社長の)手元資金の補填」にすり替わっているのです。

  • 防止策: 融資が実行されるまで、絶対に支払わない(手付金もNG)。銀行と「融資実行日=支払日」を調整すること。

パターン2:運転資金と設備資金を「混ぜて」使った

「運転資金」として1,000万円借りました。そのうち700万円を仕入れに使い、残った300万円で「ついでに」新しい営業車を買ってしまいました。

これも違反です。運転資金(返済期間5年)と設備資金(返済期間7年など)では、返済期間や審査のロジックが異なります。銀行の返済管理を混乱させる行為であり、許されません。

  • 防止策: 融資申込を2本(「運転資金700万円」「設備資金300万円」)に分けて申し込むこと。

パターン3:見積書より「安く」買えたので、差額を運転資金に回した

1,000万円の設備資金で申し込み、A社から見積書をもらっていました。しかし、交渉の結果900万円で買えました。差額の100万円が余ったので、そのまま会社の口座に入れ、仕入代金に充てました。

これも違反です。その100万円は「設備投資」という目的を失ったお金です。

  • 防止策: 差額が出たら、すぐに銀行に連絡し、繰り上げ返済(または条件変更)の手続きを取ること。

銀行を納得させる「資金使途」の書き方・伝え方 5つの極意

では、どうすれば審査に通る「資金使途」を説明できるのでしょうか。私がクライアントに必ずアドバイスする5つの極意を紹介します。

① 申込書:「定量的」に「前向き」な言葉で書く

申込書の資金使途欄は、単なるメモではありません。銀行員が最初に目にする「プレゼン資料」です。

  • NG例: 「仕入資金が足りないため」(抽象的・後ろ向き)
  • OK例: 「新規取引先A社向けの受注増(月商〇〇万円増)に対応するため、〇〇の仕入資金として」(具体的・前向き)

② 根拠資料:見積書と「資金繰り表」を必ず添付する

言葉だけでは信用されません。客観的な証拠(エビデンス)が必須です。

  • 設備資金の場合: 見積書(必須)。できれば相見積もり(「なぜその業者、その金額なのか」の妥当性を示すため)。
  • 運転資金の場合: 資金繰り表(必須)。「なぜ、いつ、いくら足りなくなるのか」を時系列で証明する唯一の資料です。

③ 金額の根拠:「なぜ、その金額が必要か」を1円単位で説明する

「キリよく1,000万円借りたい」は、経営者側の都合です。銀行は「必要額」しか貸しません。

  • NG例: 「運転資金 1,000万円」
  • OK例: 「増加運転資金 合計980万円(内訳:A社向け仕入 720万円(発注書A)、B社向け外注費 260万円(発注書B))」

このように、金額の根拠を1円単位で積み上げて説明することが、銀行の信頼を得る第一歩です。

④ 面談対策:経営者が「自分の言葉」で熱意を語る

税理士やコンサルタントが資料を作るのは良いですが、銀行の担当者と話すのは、必ず「社長自身」でなければなりません。

銀行員は「この社長は、本気で事業を伸ばす気があるか?」という熱意を見ています。他人に任せきりにせず、自分の言葉で事業計画と資金使途を語ってください。

⑤ 実行後:領収書を提出し「約束を守った」証拠を見せる

これは次の融資に向けた「未来への投資」です。 設備資金の融資が実行されたら、速やかに支払いを行い、領収書や納品書を銀行に提出しましょう。「約束通り、申告した設備を買いました」という証拠を見せることで、「この社長は信用できる」という実績が積み上がります。

まとめ:資金使途は銀行との「未来への約束」である

資金使途は、単なる「お金の使い道」ではありません。
それは、「借りたお金で事業をこのように成長させ、必ず返済します」という、銀行との「未来への約束」です。

明確な資金使途と、それを裏付ける事業計画・資金繰り表を提示すること。 これが、銀行にとって最大の安心材料となり、円滑な融資実行につながります。

あなたの会社の資金繰りや融資戦略に不安があれば、一人で悩まず専門家にご相談ください。

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銀行融資の資金使途に関するFAQ

Q1: 資金使途が「赤字補填」の場合は、どう書けばいいですか?

A1: 「赤字補填」や「損失補填」と正直に書くと、審査にはほぼ通りません。これは過去の損失を埋めるだけの「後ろ向き」な資金と見なされるからです。 この場合、「事業改善資金」(例:不採算部門の整理費用、在庫処分費用、リストラ費用)など、未来の黒字化に向けた「前向きな投資」として説明を組み直す必要があります。必ず、説得力のある経営改善計画書をセットで提出してください。

Q2: 融資実行前に、自己資金で手付金を払ってしまいました。どうなりますか?

A2: 厳密には「資金使途違反」と見なされ、その手付金分は融資対象外となるリスクが非常に高いです。手付金を支払った時点で、融資対象は「(支払った手付金を除く)残額」のみとなります。自己判断せず、すぐに銀行の担当者に正直に相談してください。

Q3: 運転資金として借りたお金の使い道を、銀行はどこまでチェックしますか?

A3: 設備資金のように領収書を一枚一枚チェックすることは稀ですが、融資実行後の決算書や試算表は厳しく見られます。 例えば、「仕入資金」として借りたのに、試算表で「在庫」や「売掛金」が増えておらず、代わりに「仮払金」や「役員貸付金」が増えていれば、即座に資金使途違反を疑われます。銀行は「お金の流れ(勘定科目の動き・増減)」を常時監視しています。

Q4: 資金使途を複数(例:仕入と広告費)まとめて申し込むことはできますか?

A4: 可能です。それらがすべて「運転資金」という大きな枠組みであれば問題ありません。ただし、Q5の③で解説した通り、「運転資金 〇〇万円」とまとめるのではなく、「(内訳)A社向け仕入資金 〇〇万円、新商品B向け広告宣伝費 〇〇万円」と内訳を明確にし、それぞれの根拠(発注書や広告代理店の見積書など)を提示してください。

Q5: 資金使途違反は、なぜバレるのですか?

A5: 理由は大きく2つあります。 1つは、設備資金の場合、融資実行後に領収書や納品書、場合によっては現物(「買った機械を見せてください」)の確認があるためです。 もう1つは、運転資金の場合でも、定期的な決算書や試算表の提出、メインバンクであれば通帳の動きで発覚するからです。プロである銀行員が「お金の不自然な動き」を見逃すことはありません。