
【監修者プロフィール】
合同会社スタイルマネジメント 佐藤恵介
経済産業省 認定経営革新等支援機関
『資金繰り表作成&活用マニュアル』マネジメント社 2025年11月 共同著者
資金繰り改善、銀行対応(資金調達)、経営計画書作成、売上・利益改善などと支援する財務コンサルタント

『資金繰り表作成&活用マニュアル』
2025年11月 マネジメント社より共同出版
Amazonにて発売中
「攻めの設備投資を行いたいが、銀行が首を縦に振ってくれるか不安だ」
「億単位の借入になるため、万が一のときに会社が傾かないか心配だ」
私の元には、こうした相談が後を絶ちません。
設備投資は企業の成長に不可欠なエンジンですが、同時にキャッシュフローを固定化させる大きなリスクも孕んでいます。
長年、財務コンサルタントとして多くの企業に関わってきましたが、銀行融資がスムーズに通る企業と、そうでない企業には明確な差があります。
それは、「銀行員が融資したくなる『適正な投資目的』と『確実な返済計画』を、論理的に提示できているか」という点に尽きます。
本記事では、机上の空論ではない、現場で培った「設備投資融資の通し方」と「失敗しない資金計画」について解説します。
なぜ「設備投資」は銀行融資が通りやすいのか?
まず大前提として、銀行は設備資金の融資を歓迎します。
使途が不明確になりがちな「運転資金」とは異なり、設備投資は以下のように資金の行き先と効果が明確だからです。
- 資産性: 導入した設備自体が資産となり、場合によっては担保価値を持つ。
- 将来性: 生産能力の増強や合理化により、企業の収益力が向上する期待がある。
しかし、単に「機械が欲しい」と言うだけではお金は借りられません。銀行は、その投資が「経営戦略上、本当に不可欠か?」「投資内容は適正か?」を厳しくチェックします。
銀行が納得する「5つの投資目的」
私が事業計画書を添削する際、必ず確認するのが「投資の目的・狙い」の言語化です。
単なる「老朽化更新」であっても、そこに戦略的な意義付けが必要です。銀行が評価しやすい目的は主に以下の5つに分類されます。
- 能力増強: 受注増に対応するためのライン増設など。
- 合理化・省力化: 最新設備導入によるコスト削減、人件費抑制。
- 研究開発: 将来の飯のタネを作るための先行投資。
- 付帯設備: 倉庫や配送センターなど、物流効率の改善。
- 環境対応・福利厚生: 公害防止や社員満足度の向上 3。
重要なのは、これらが「販売力に比べて設備能力が不足している」という現状の課題解決や、「ライバルを突き放してシェアを拡大する」という明確な「狙い」とリンクしていることです。
審査の分かれ目! 銀行員が見ている「3つの隠れたリスク」
銀行担当者が稟議書を書く際、最も恐れるのは「貸した金が返ってこないこと(貸倒れ)」です。そのため、以下の3点について厳しい視線を注いでいます。ここを先回りして潰せるかが、事業計画書の質を決めます。
1.「タイミング」は適切か?
最も危険なのは、「景気の頂点で大型投資を行い、稼働開始と同時に不況に突入する」パターンです。
過去の事例ですが、ある製造業(A社)が、業界バブルの最中に第2工場を建設しようとしました。しかし、製品のライフサイクル分析を行うと、すでに「成熟期」に差し掛かっていました。私は「今は投資すべきではない。あと2年待ち、次世代製品の開発に資金を回すべきだ」と助言し、結果としてA社は致命的な過剰在庫を抱えずに済みました。
銀行は、その製品が「成長期」にあるのか、それとも「衰退期」なのかを冷静に見ています。
2.技術的な「陳腐化」はないか?
導入する設備の性能が、他社と比較して劣っていないか、あるいは技術進歩によってすぐに時代遅れ(陳腐化)になる恐れがないかも重要なチェックポイントです。
「安物買いの銭失い」にならないよう、あえて高スペックな設備を選ぶことが、長期的な競争優位につながるケースもあります。
3.「運営能力・生産能力」は足りているか?
意外と見落とされがちなのが、「箱(設備)はできたが、動かす人(技術・販売)がいない」という事態です。
- 新しい機械を使いこなせる技術者はいるか?
- 増産した分を売り切る販売網はあるか?これらを計画書に盛り込むことで、銀行の不安を払拭できます。
【実践編】説得力が変わる「投資効果」の算出法
「この投資でどれくらい儲かるのか?」
これを数字で証明するために、実務でよく使われる計算式を紹介します。複雑なファイナンス理論よりも、銀行員が直感的に理解できる指標を使うのがコツです。
投資資金回収法
最もシンプルで強力なのが、「何年で元が取れるか」を示すこの式です。
回収期間(年)= (新設備投資額 – 旧設備投資額)/ (年間利益増加額 + 減価償却費増加額)
の計算における分母は、投資によって生み出される「キャッシュの増加額」を指します。
一般的に、中小企業の設備投資であれば、耐用年数以内で、かつ3〜5年程度で回収できる計画であれば、銀行は「安全圏」と判断しやすい傾向にあります。
他にも、将来の利益を現在価値に割り戻す「正味現在価値法(NPV)」などがありますが、まずは上記の回収期間を明確にすることが第一歩です。
資金調達と返済計画の黄金ルール
最後に、最も重要な「お金の入りと出」の計画についてです。
「借りられるだけ借りる」はNGです。以下のバランスを必ず検討してください。
1.調達計画:自己資金と借入のバランス
全額借入は、銀行からの見栄えが良くありません。企業内部の資金(現預金や資産処分代金)をある程度充当し、リスクを分担する姿勢を見せることが重要です。
また、補助金や助成金が使える場合は、それを加味した調達スケジュールを組みます。ただし、補助金は「後払い」が基本なので、つなぎ融資が必要になる点には注意が必要です。
2.返済計画:「返済原資」の正体を知る
ここが多くの経営者が誤解しているポイントです。
借金の返済は、「売上」から行うのではありません。「利益」だけでもありません。正確な返済原資は以下の式で表されます。
返済財源 = 経常利益 + 減価償却費 – 法人税
これがいわゆる「フリーキャッシュフロー」です。
減価償却費は「現金の支出を伴わない費用」であるため、手元のキャッシュとしては残ります。したがって、返済能力を見る際は、利益に減価償却費を足し戻した金額で判断するのです。
このフリーキャッシュフローの範囲内に、毎年の返済額(元金返済)が収まっているか。これが、融資審査の絶対的なボーダーラインとなります。
まとめ:設備投資は「会社の未来」への宣言
設備投資の融資審査は、単なる「審査」ではなく、銀行に対する「未来のプレゼンテーション」です。
- 目的: 攻めの姿勢と合理性が両立しているか。
- タイミング: 市場環境を冷静に見極めているか。
- 返済: フリーキャッシュフローに基づいた無理のない計画か。
これらが揃い、調達・償還計画が確かであれば、銀行は必ずや「良きパートナー」として背中を押してくれます。
もし、「自社の計画書が銀行視点でどう見えるか不安だ」「複雑なシミュレーションを作成したい」という場合は、ぜひ一度専門家にご相談ください。貴社の挑戦を、数字の裏付けで強力にサポートいたします。