
【監修者プロフィール】
合同会社スタイルマネジメント 佐藤恵介
経済産業省 認定経営革新等支援機関
『資金繰り表作成&活用マニュアル』マネジメント社 2025年11月 共同著者
資金繰り改善、銀行対応(資金調達)、経営計画書作成、売上・利益改善などと支援する財務コンサルタント

『資金繰り表作成&活用マニュアル』
2025年11月 マネジメント社より共同出版
Amazonにて発売中
「付き合いの長い支店長が、『合併後は審査基準が変わるかもしれない』と言い出しました。」
先日、私が顧問を務める建設会社の社長から、こんな相談を受けました。
2026年現在、地方銀行を中心に再編の動きが再び活発化しています。これまでの「救済合併」とは異なり、金利ある世界での生き残りをかけた「攻めの広域再編」や、異業種を巻き込んだ連携が主流です。
ニュースでは「経営基盤の強化」と報じられますが、
中小企業経営者にとって重要なのは
「自社の融資枠(借入余力)が守られるか」
「金利や条件がどう変わるか」
という実利の一点に尽きます。
本記事では、財務コンサルタントとして数多の銀行交渉の現場に立ち会ってきた経験から、銀行再編の裏側で起きている実態と、年商1〜10億円規模の企業がとるべき「銀行対応の最適解」を解説します。
【2025-2027】なぜ今、銀行再編が加速しているのか
まず、足元の状況を整理しましょう。2025年12月に公表された行政方針や、直近の市場環境の変化により、銀行を取り巻く環境は激変しました。
「金利復活」と「システムコスト」の板挟み
かつての再編は「不良債権処理」や「赤字銀行の救済」が主目的でした。
しかし現在は違います。
マイナス金利解除により、銀行は貸出金利で利益を出せるようになりましたが、同時に「預金獲得競争」が激化しています。また、老朽化した勘定系システムの刷新やDX対応には数百億円規模の投資が必要であり、単独での生き残りが物理的に困難になっているのです。
実際に、地方銀行の数は1990年末の132行から、2025年3月末には97行への3割減少しています。特に、比較的小規模な第二地方銀行は68行から36行へとほぼ半減している。
直近の再編タイムライン(主要事例)
- 2025年1月:青森銀行・みちのく銀行による「青森みちのく銀行」発足(システム完全統合)
- 2026年1月:長野県内での「八十二長野銀行」広域連携(八十二銀行と長野銀行が合併)の深化
- 2026年以降:愛知県(あいり銀行 愛知銀行と中京銀行)、福岡県を中心とした「県境を越えたアライアンス」の拡大
これらが意味するのは、「銀行も生き残りに必死であり、取引先を選別するフェーズに入った」ということです。
銀行合併の裏側で、中小企業に起きる「3つのリスク」
ここからは、表のニュースには出てこない、現場レベルでの「実務的な影響」をお話しします。合併発表からシステム統合完了までの数年間、企業の資金繰りには以下のリスクが潜んでいます。
1.合併による与信枠の縮小
これが最大のリスクです。
例えば、A銀行から3億円、B銀行から2億円借りていたとします。両行が合併した場合、単純計算で借入総額は5億円になります。 しかし、新銀行の規定で「一社あたりの融資上限(極度額)は4億円まで」となっていた場合、差額の1億円は「超過」とみなされます。すぐに返済を求められることは稀ですが、「次の追加融資が極めて降りにくくなる」という事態が頻発します。
2.審査基準の「厳しい方への統一」
銀行が合併する際、格付け基準や担保評価基準は統合されます。私の経験則ですが、これらは「より厳格な(保守的な)基準」に統一される傾向があります。
「旧A行ではプロパー融資が出たのに、新銀行になった途端に保証協会付きしか認められなくなった」というケースは枚挙にいとまがありません。
3.担当者の多忙による「空白期間」
合併前後の行員は、システム移行や事務手続きで殺人的な忙しさになります。
「融資の申し込みをしてもレスポンスが遅い」「担当者が頻繁に変わる」といった事態が起きやすく、緊急の資金需要に対応してもらえないリスクが高まります。
【事例解説】賢い社長は「再編」をこう乗り越えた
私が資金繰り支援に入っていた、年商5億円規模の製造業(仮称:X社)の事例をご紹介します。 X社のメインバンクとサブバンクの合併が報道された際、社長は不安を抱いていました。そこで私たちは、合併が完了するまでの「準備期間」に以下の手を打ちました。
対策①:第三の銀行(信金・商工中金)とのパイプ作り
X社はこれまで2行取引でしたが、合併により「1行取引」になってしまう恐れがありました。そこで、合併完了前に地域の信用金庫と商工中金にアプローチし、小口でも良いので融資実績(口座開設+手形割引+少額融資)を作りました。
これにより、合併後の新銀行に対して「他行へ借り換える選択肢」をチラつかせる交渉カードを持つことができました。
対策②:決算書の「見せ方」を変える
合併後の新銀行では、AI審査やスコアリングモデルの比重が高まることが予想されました。そこで、節税重視で利益を圧縮していた決算を見直し、営業利益・経常利益をしっかりと計上する方針へ転換。 「格付け」を意識した決算書作りを2期続けることで、合併後の再格付けでも上位ランクを維持することに成功しました。
年商10億を目指す企業がとるべき「攻め」の銀行対策
銀行再編はリスクだけではありません。規模が大きくなることは、提供されるサービスの幅が広がることを意味します。
「金利」だけで銀行を選ばない
再編後のメガ地銀クラスになれば、M&Aのマッチング情報、海外進出支援、事業承継の専門部隊など、ソリューション機能が強化されます。 年商10億円の壁を越えるには、単なる資金の出し手としてだけでなく、「経営課題を解決する金融パートナー」として新銀行の機能を使う視点が必要です。
複数行取引の推奨
私の推奨するポートフォリオは以下の通りです。
- メガバンク・広域地銀(1行):情報収集、海外送金、大型設備投資用
- 地域密着の地銀・第二地銀(1行):メインバンクとして日常的な運転資金に対応
- 信用金庫・信用組合(1-2行):小回りが利き、親身な対応(「雨の日に傘を貸してくれる」存在)
再編のニュースが出た時こそ、このバランスを見直す絶好の機会です。
よくある質問(FAQ)
Q. メインバンクが合併・消滅します。預金金利や手数料は変わりますか?
A. 短期的には変わりませんが、長期的には見直されます。
合併直後は旧銀行の条件が維持されることが多いですが、システム統合のタイミングで手数料や金利体系が統一されます。一般的に、振込手数料などはネットバンキング利用を前提に優遇される傾向にあるため、早めのデジタル対応をおすすめします。
Q. 1県1行体制(独占状態)になると、金利交渉ができなくなるのでは?
A. 競争相手を「隣県の銀行」や「ネット銀行」に広げれば問題ありません。
地元の銀行が1つになっても、今は隣県の地銀やネット銀行が積極的に融資攻勢をかけています。「地元の銀行しか付き合えない」という固定観念を捨て、広くアンテナを張ることで、競争原理を働かせることが可能です。
Q. 担当者から「投資信託」などをしつこく勧められるようになりました。
A. 本業支援(融資やビジネスマッチング)とのバーターで考えましょう。
再編後の銀行は収益目標が厳しくなりがちです。無理に購入する必要はありませんが、あえて少額付き合うことで関係性を良好にし、本丸である「プロパー融資」の条件交渉を有利に進めるのも、経営者としてのテクニック・選択肢の一つです。
まとめ:変化を恐れず、自社の「財務体力」を見直そう
銀行再編は、金融機関側の都合で進むものです。しかし、それを嘆いても始まりません。 重要なのは、銀行の看板が変わっても揺るがない「自社の稼ぐ力」と「財務の透明性」を高めることです。
銀行が大きくなるということは、それに見合う「しっかりした融資先」を求めているということでもあります。 再編をきっかけに、自社の決算書や資金繰り表を改めて見直し、「選ばれる企業」から「銀行を選べる企業」へとステップアップしていきましょう。
もし、合併に伴う資金繰りの見直しや、新規銀行開拓のアプローチ方法にお悩みであれば、専門家のセカンドオピニオンを活用することも一つの手です。