『資金繰り表作成&活用マニュアル』

立派な冊子や手帳の中期経営計画書を作っても、半年もすれば書棚の肥やしになっている…

多くの経営者様からご相談いただく、典型的な悩みです。

「現場が動かない」
「計画通りに数字が伸びない」

この原因の9割は、戦略(経営計画)を現場の言葉(アクションプラン)に翻訳できていないことにあります。そして、銀行をはじめとする金融機関は、美しいビジョンよりも、この「アクションプランの泥臭い具体性」を極めてシビアに見ています。 なぜなら、そこには企業の「返済能力の根拠」が詰まっているからです。

本記事では、財務コンサルタントとして数多くの企業再生と融資交渉に立ち会ってきた経験から、経営計画を確実に利益とキャッシュに変え、銀行からの評価をも高める「最強のアクションプラン」の作り方を解説します。


経営計画におけるアクションプランとは?

まず定義を明確にしておきましょう。

経営計画におけるアクションプランとは、
「経営数値(KGI)」を「日々の行動(ToDo)」にまで因数分解し、期限と責任者を明確にした指示書のことです。

多くの企業で起きている悲劇は、社長の頭の中にある「戦略(こうなったらいいな)」と、現場の「現実(今日なにをやるか)」の間に、巨大な断絶がありつながっていないことです。

  • 経営計画(戦略): 山の頂上(ゴール)を示すもの。
  • アクションプラン(戦術): どのルートで、どんな装備で、今日どこまで登るかを示す工程表。

銀行融資の審査においても、決算書の数字(過去)と同じくらい、経営計画(未来)が重視されます。その際、審査担当者が最も目を光らせるのは、「売上を1.2倍にします」という数値目標ではなく、その根拠である、「具体的に誰が、何をしてその数字を作るのか? その行動は実現可能なのか?」というアクションプランの解像度なのです。


なぜ多くのアクションプランは失敗するのか?(3つの落とし穴)

私がこれまで拝見してきた「失敗するアクションプラン」には、共通する3つの特徴があります。ある卸売業(年商10億規模)のA社の事例(※守秘義務のため一部改変)を交えて解説します。

1.言葉が「形容詞」で止まっている

A社のアクションプランにはこう書かれていました。

「既存顧客への営業を強化する」
「コミュニケーションを密にする」

これはアクションプランではありません。単なるスローガンです。
「強化する」とは、訪問回数を増やすことなのか、提案資料を変えることなのか、値引きをすることなのか。定義が曖昧なため、現場社員は「今まで通り頑張る」ことしかできず、結果は変わりません。

アクションプランは、「動詞」かつ「数値」で表現する必要があります。

2.財務インパクト(キャッシュ)と連動していない

・強化
・徹底
・推進
・充実
・浸透
・増加
・向上
などの良く使われてしまう便利で曖昧な表現はやめましょう。
これでは、誰が、何を、どこまでやるのかが全く分かりません。

「全社員で毎朝清掃をする」
「SNSを毎日更新する」

これらは素晴らしい行動ですが、それが直接的にいくらの利益(またはコスト削減)を生むのか計算されていないケースが多々あります。

資金繰りが厳しい局面において、即効性のない(キャッシュに変わらない)アクションで現場を疲弊させることは、経営判断としてリスクがあります。

3.「やめること」を決めていない

現場はすでに日々のルーチンワークで手一杯です。そこに新しいアクションプランを「上乗せ」すれば、必ずパンクします。
授業員は何でそこまでしないといけないのか?これやる意味あるの?と思っています。

新しい行動を計画する際は、同時に「廃止する業務」や「効率化する業務」をセットで計画しなければ、実効性はゼロに等しくなります。


銀行も納得する!成果を生むアクションプラン作成5ステップ

では、どのように作成すればよいのでしょうか。私が支援先で実践しているフレームワークをご紹介します。

STEP1:KGI(最終目標)からの逆算と因数分解

まずは経営計画の数値目標(売上・粗利・営業利益)をスタート地点にします。
KGIとは、最終的なゴールを指します。

例えば「売上1億円アップ」が目標なら、それを因数分解します。

  • 客数 × 客単価?
  • 新規開拓 × 成約率?
  • 既存顧客 × リピート率?どの要素を伸ばすのか、ロジックツリーを用いて分解します。

STEP2:KPI(先行指標)の設定

ここが最重要ポイントです。「売上」は結果(遅行指標)であり、コントロールできません。現場がコントロールできるのは「先行指標(KPI)」だけです。
KPIとは、KGI(最終的なゴール)を達成するために必要な行動の数値目標などを指します。

  • × 目標:売上を上げる
  • ○ 目標:見積提出件数を月10件から20件にする

他にも、KPIの例としては、以下のようなものがあります。
自社でどの数字が足りていないか、検討してみましょう。

  • 営業
    • アポイント件数
    • 成約率
    • リピート率
    • 平均受注単価
    • 訪問数
    • 追加提案数
    • 見積書送付数
  • マーケティング
    • メール開封率
    • リード獲得数
    • コンバージョン数(CV)
    • コンバージョン率(CVR)
    • 広告CPA(顧客獲得単価)
    • セッション数
    • ユニークユーザー(UU)数
  • カスタマーサポート
    • 平均対応時間
    • 問い合わせ件数
    • 顧客満足度
    • 解決率
    • 応答時間

STEP3:具体的な行動(動詞)への変換

KPIを達成するための行動を定義します。「見積を20件出す」ためには、「アポイントを60件取る」必要があり、そのためには「架電を200件行う」必要があるかもしれません。

ここまで落とし込んで初めて、現場は「今日何をすべきか」を理解します。

STEP4:リソース(ヒト・カネ・時間)の配分

その架電200件を「誰が(Who)」「いつまでに(When)」やるのか。そして、それをやるための予算(Cost)やツールは足りているかを確認します。

STEP5:財務インパクトの試算

このアクションが成功した場合、PL(損益計算書)やCF(キャッシュフロー計算書)にどう影響するかを試算します。

銀行に対して「このアクションプランを実行するために〇〇万円の資金が必要ですが、実行すれば半年後に〇〇万円のキャッシュフロー改善が見込めます」と説明できれば、融資の可決率は飛躍的に高まります。


【保存版】アクションプランシートに盛り込むべき必須9項目

形式はExcelでもスプレッドシートでも構いません。しかし、以下の9項目は必ず網羅してください。5W2Hに「財務視点」を加えた構成です。

項目内容・書き方のポイント
1.重点施策名プロジェクト名や施策のタイトル
2.目的(Why)なぜやるのか?経営計画のどの戦略に該当しているのか?
3.具体的行動(What / How)「○○する」という動詞で書く。誰が見ても行動できるレベルで
4.担当者(Who)部署ではなく「個人名」で書く。責任の所在を明らかにする
5.期限(When)最終納期だけではなくて、取り掛かりや中間期限も書く
6.必要予算(How much)広告宣伝費、販促費、外注費、採用費など
7.KPI(先行指標)行動の量を測る指標(例:訪問数、提案数)
8.KGI / 財務考課達成時の成果(例:粗利〇〇円増、コスト〇〇円減)
9.想定リスクと対策うまくいかなかったときのプランB

実行力を担保する「モニタリング」と「PDCA」

計画を作って満足してしまうのが最大の敵です。作っただけでは、ほぼ意味がありません。
アクションプランを生きたものにするためには、月次のモニタリング(予実管理)が不可欠です。

私が顧問先で開催する「月次報告会」では、以下のルールを徹底しています。

  1. 「できませんでした」で終わらせない未達の場合、責めるのではなく
    「なぜ未達か(行動不足か、仮説が間違っていたか)」を分析し、「次月どうリカバリーするか(行動量を倍にするか、やり方を変えるか)」の決定だけを行います。
  2. 経営数値とアクションの連動確認「アクションプランは100%完了しているのに、売上が上がっていない」というケースがあります。これは「戦略(仮説)」そのものが間違っていたことを意味します。この場合は、躊躇なくアクションプラン自体を修正(書き換え)します。

よくある質問(FAQ)

Q. アクションプランはどのくらいの細かさで書くべきですか?

A. 「新入社員が読んでも、今日何をすればいいか分かるレベル」が理想です。「営業強化」ではなく「休眠顧客リストの上から順に1日10件電話し、新商品の案内をする」と書きます。

Q. 計画通りに進まない場合、途中で変えてもいいですか?

A. もちろん変えてください。経営環境は刻一刻と変化します。固執して間違った穴を掘り続けるより、早期に方向転換することこそが、正しい経営判断です。ただし、変更の履歴と理由は残しておきましょう。

Q. 小規模な会社でもここまでのプランが必要ですか?

A. 小規模だからこそ必要です。リソース(人・モノ・カネ)が限られている中小企業こそ、一点突破でリソースを集中させなければ成果は出ません。また、銀行融資を受ける際、規模が小さい企業ほど「経営者の計画実行能力」が見られています。


まとめ:アクションプランは経営者の「意思」そのものである

アクションプランとは、単なるTo-Doリストではありません。

「わが社は、いつまでに、どのような方法で、これだけの利益を生み出す約束をする」という、社内および社外(金融機関・取引先)に対する経営者の「意思表示」であり「宣言」です。

銀行が貸したくなる企業とは、未来を語るだけでなく、その未来を手繰り寄せるための「足元の階段(アクションプラン)」が強固に設計されている企業です。

もし、貴社の経営計画が「絵に描いた餅」になりかけているなら、あるいは銀行への説明で説得力を持たせたいとお考えなら、一度「アクションプランの解像度」を見直してみてください。そこに、次のステージへ進むための鍵が必ず隠されています。