
【監修者プロフィール】
合同会社スタイルマネジメント 佐藤恵介
経済産業省 認定経営革新等支援機関
『資金繰り表作成&活用マニュアル』マネジメント社 2025年11月 共同著者
資金繰り改善、銀行対応(資金調達)、経営計画書作成、売上・利益改善などと支援する財務コンサルタント

『資金繰り表作成&活用マニュアル』
2025年11月 マネジメント社より共同出版
Amazonにて発売中
「会社の借金は、社長が個人保証して当たり前」
長年、日本の商慣習として根付いてきたこの常識が今、大きく変わろうとしています。
事業承継の大きなハードルとなったり、経営者の思い切った事業展開を阻害したりする「経営者保証(連帯保証)」。
これを一定のルールの下で外そうという国の施策が「経営者保証ガイドライン」です。
しかし、単に「外してください」と銀行に頼むだけでは解除は実現しません。銀行員が納得するだけの「エビデンス」と「ロジック」が必要です。
本記事では、財務コンサルタントとして数多くの中小企業の資金繰り・銀行交渉を支援してきた筆者が、ガイドラインの適用要件から、銀行との具体的な交渉術まで、現場の知見を交えて徹底解説します。
経営者保証ガイドラインとは?なぜ今、解除が可能なのか
かつては「包括的根保証」や「根保証」といった、経営者をがんじがらめにする保証契約が一般的でした 。しかし、時代の変化とともに保証のあり方は見直され、現在では国を挙げて「経営者保証に依存しない融資慣行」の確立を目指しています 。
特に重要なのが、経営者保証ガイドラインにおける「連帯保証」の扱いです。
通常の「保証人」であれば、まずは借金をした本人(会社)に請求してくれと言える権利(催告の抗弁権)や、会社に財産があるならそちらから回収してくれと言える権利(検索の抗弁権)があります 。
しかし、「連帯保証人」にはこれらの権利が一切ありません 。つまり、「法人の借入=個人の借入」という非常に重い責任を負わされているのです 。
この重すぎる負担を、一定の要件を満たす健全な経営をしている企業については外していこうというのが、本ガイドラインの趣旨です。
【自己診断】保証解除に必要な「3つの要件」チェックリスト
経営者保証ガイドラインに基づいて保証解除を申し入れるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。これらは単なる精神論ではなく、明確な数値や体制が問われます。
私が現場で実際に使用しているチェックポイントを公開しますので、自社の状況と照らし合わせてみてください。
1. 法人と経営者の明確な区分・分離
会社は「社長の財布」ではありません。公私混同を排除し、ガバナンスが効いていることが大前提です 。
▼区分・分離チェックリスト
- 本社、工場、営業車などの資産は、個人ではなく「法人所有」になっている
- 自宅兼事務所などの場合、法人から個人へ適切な賃料が支払われている
- 社長個人への貸付金(役員貸付金)が存在しない
- 個人の飲食代などが法人の経費に含まれていない
- 役員報酬の決定プロセスが規定で明確化されている
- 親族以外の第三者が取締役や監査役に入り、牽制機能が働いている
プロの視点: 特に銀行が嫌うのが「役員貸付金」です。これが決算書にあるだけで「会社のお金が社長に流れている=分離されていない」と判断され、解除の交渉は極めて困難になります。まずはこの解消がスタートラインです。
2.財務基盤の強化
保証(担保)に頼らなくても返済ができるだけの「基礎体力」が求められます 。 以下の指標は、私の顧問先で解除を目指す際に目安としている数値目標です。
▼財務基盤チェックリスト
- 自己資本比率が20%以上ある
- インタレスト・カバレッジ・レシオ(営業利益+受取利息配当金 ÷ 支払利息)が2倍以上ある
- 直近決算で3期連続黒字である
- 有利子負債キャッシュフロー倍率が10倍以下である(理想は5倍以下)
- 融資金額に対して十分なキャッシュフローを有している
プロの視点: すべてを完璧に満たす必要はありませんが、「2期連続かつ自己資本比率30%以上」などの実績があると銀行への説得力は格段に増します 。
3.財務情報の開示による透明性確保
銀行は「見えないもの」を恐れます。常に会社の状況を開示し、信頼関係(リレーションシップ)を構築する必要があります 。
▼情報開示チェックリスト
- 決算書だけでなく、精度の高い「月次試算表」を作成・提出している
- 資金繰り表を作成し、資金管理を行っている
- 「中小企業の会計に関する基本要領」等に拠った信頼性のある計算書類である
- 金融機関からの報告依頼に対して、誠実かつ即座に対応している
実践!銀行に保証解除を申し入れるステップ
要件がある程度整ったら、いよいよ銀行との交渉です。 「今ある保証を外したい」という要望を通すには、段取りが大事です 。
STEP1:社内体制の整備と資料作成
まずは、経理体制の構築が必要です 。年に一度の決算書しか出せないようでは、「透明性の確保」は認められません。月次で正確な数字を把握できる体制を作り、事業計画書と資金繰り表をセットで用意します。
STEP2:メインバンクへの打診
いきなり「保証を外してほしい」と迫るのではなく、「経営者保証ガイドラインに則った経営を目指したいので、現状の課題を教えてほしい」と相談ベースで持ちかけます。これにより、良好な関係を維持したまま交渉に入れます 。
STEP3:外部専門家の活用(専門家確認スキーム)
自社だけで交渉するのが難しい場合、税理士や財務コンサルタント等の外部専門家が「ガイドライン要件を満たしている」ことを検証し、銀行に報告するスキームも有効です 。客観的なお墨付きがあることで、銀行内の稟議が通りやすくなるケースがあります。
【事例紹介】私が担当したA社の解除事例
(※守秘義務のため、業種や数値を一部加工していますが、実話に基づく事例です)
【A社の状況】
- 業種: 金属加工業(年商3億円規模)
- 課題: 業績は堅調だが、先代からの借入金を含め全額に社長の個人保証が入っていた。社長は自宅を担保に入れていることが精神的な負担となっていた。
- 財務状況: 2期連続黒字だが、社長への貸付金が300万円ほど残っていた。
【実施した対策】
- 役員貸付金の解消: まず、社長個人の手元資金で役員貸付金を全額返済し、「法人と個人の分離」を明確にした 。
- 試算表の早期化: これまで2ヶ月遅れだった試算表を、翌月20日には完成させ、銀行へ毎月持参するように業務フローを改善した 。
- 事業計画書の提出: 今後5年間の返済計画と、それが本業のキャッシュフローで賄えることを示す「資金繰り表」を作成し、提示した 。
【結果】 メインバンクとの半年間の交渉の末、既存借入の約8割について保証解除に成功。金利は0.1%ほど上がりましたが、社長は「何かあっても家族に迷惑がかからない安心感には代えられない」と安堵されていました。
よくある質問(FAQ)
Q. 赤字決算ですが、解除は無理でしょうか?
A. 絶対に無理とは言い切れませんが、ハードルは高いです。 ガイドラインでは「財務基盤の強化」が求められます。ただし、一時的な赤字であり、V字回復の根拠ある計画(将来的な収益・CFの確保)が示せれば、交渉の余地はあります 。まずは黒字化への道筋を銀行に示すことから始めましょう。
Q. 保証を外すと金利は上がりますか?
A. 上がる可能性があります。 銀行にとって保証解除は「保全が減る(リスクが高まる)」ことを意味します。そのリスクプレミアムとして金利上乗せを提示されることは一般的です。しかし、それをコストと捉えるか、経営の自由度を得るための保険料と捉えるかは経営判断になります。
Q. 創業時の融資でも保証なしにできますか?
A. 創業融資向けの特別な制度があります。 創業時は実績(財務基盤)がないため、通常のガイドライン適用は難しいですが、日本政策金融公庫や信用保証協会には、スタートアップ向けの「経営者保証不要」の融資制度が用意されています。これらを積極的に活用しましょう 。
まとめ:経営者保証の解除は「経営品質」の証明
経営者保証の解除は、単に「責任を逃れる」ことではありません。 「会社と個人の財布を分ける」「数字で経営を語れるようにする」といった、企業として当たり前の姿、つまり「経営の品質」を高めた結果として得られる結果です。
もし、あなたが「自社は要件を満たしているはずだ」と思われたり、「何から手をつければいいか分からない」と悩まれたりしているなら、一度専門家の診断を受けてみることをお勧めします。
弊社では、貴社の決算書・試算表を拝見し、経営者保証ガイドラインへの適合度診断や、銀行交渉に向けた具体的なアドバイスを行っています。まずは無料相談にて、現状をお聞かせください。