法人が銀行から融資を受けようとするとき、必ず「必要書類」の提出を求められます。
しかし、多くの経営者が
「なぜこんなに多くの書類が必要なのか」
「リストはもらったが、どう準備すれば審査に通りやすくなるのか」
と悩まれます。

銀行融資の必要書類は、単なる手続きではありません。
それは、あなたの会社が「融資した資金を、計画通りに事業で増やし、確実に返済してくれる」ことを証明するための、銀行との対話資料(コミュニケーションツール)です。

この記事では、長年、財務コンサルタントとして多くの企業の資金繰り支援や銀行交渉に携わってきた経験から、法人の銀行融資に必要な書類の全リストと、銀行が「本当に見ている」審査の裏側、そして書類作成のコツを徹底的に解説します。

【この記事でわかること】

  • 銀行融資に必要な書類の「全リスト」
  • 銀行が各書類の「どこを」見ているか(審査の裏側)
  • 書類準備から融資実行までの「流れ」とスピードの重要性
  • 【状況別】(創業期・設備投資時・業績不振時)の追加書類

法人の銀行融資「必要書類」完全マップ|必須・補足・状況別

銀行融資で求められる書類は、会社の状況や融資の目的によって異なります。
まずは全体像として「必須書類」「補足書類」「特定の状況下で必要な書類」に分けて一覧で紹介します。

(※これはチェックリストとしてもお使いください)

カテゴリ書類名必須度入手先/作成者
【A】必須書類①決算書(直近2~3期分)★★★★★税理士/自社
②試算表(直近月まで)★★★★★税理士/自社
③事業計画書★★★★★自社(経営者)
④資金繰り表(実績・予定)★★★★★自社(経営者)
⑤納税証明書(法人税・事業税等)★★★★★税務署 / 都道府県税事務所
⑥商業登記簿謄本★★★★☆法務局
⑦印鑑証明書(法人・代表者)★★★★☆法務局/市区町村
【B】補足書類①定款(写し)★★★☆☆自社
②借入状況一覧表★★★☆☆自社
③企業概要書(会社案内)★★☆☆☆自社
【C】状況別書類(創業期)創業計画書★★★★★自社(経営者)
(創業期)自己資金の証明(通帳)★★★★★自社(経営者)
(設備投資時)見積書・カタログ★★★★★取引先/自社
(許認可事業)許認可証のコピー★★★★☆自社
(業績不振時)経営改善計画書★★★★★自社(専門家と共同)

【A】必須書類7選:銀行が「見る」ポイントと作成のコツ

融資審査の土台となる最も重要な書類です。銀行がなぜこの書類を要求し、どこをチェックしているのか。私が現場で見てきた「一次情報」を交えて解説します。

① 決算書(直近2〜3期分)

  • なぜ必要か:
    会社の「過去の成績表」です。過去の収益力と財務体質(体力・安全性)を見て、返済能力を判断します。
  • 銀行の視点(コンサルタントの知見):
    • 債務超過ではないか?:
      貸借対照表(B/S)の「純資産の部」がマイナス(=債務超過)だと、融資は極めて困難です。これは「会社が今解散したら借金だけが残る」状態を意味します。
    • 赤字が続いていないか:
      2期連続の赤字(特に営業赤字)は厳しく見られます。3期連続は原則NGと考えるべきです。
    • 【最重要】勘定科目の「ノイズ」:
      銀行員がB/Sで真っ先に嫌う勘定科目があります。それは「役員貸付金」と「仮払金」です。
      • 役員貸付金:
        「会社のカネ=社長個人の財布」と見なされます。融資した資金もそちらに流用されるのでは? と強く警戒されます。私が支援したある建設業のC社は、これが数千万円あり、銀行から「まずこれを解消(社長個人が返済)しないと話にならない」と一蹴されました。その場合、貸付金の返済計画も必要となります。
      • 仮払金:
        使途不明金です。粉飾(利益操作)を疑われる原因にもなります。
  • 作成のコツ:
    • 税理士が作成し、電子申告(e-Tax)の「受信通知」が添付された決算書を提出してください。税理士の署名押印や受信通知は、決算書の信頼性を担保します。
    • もし赤字や債務超過などのネガティブな点があっても、隠さず、その理由(例:先行投資、一時的な要因)と、今期の改善状況(試算表で示す)をセットで説明することが鉄則です。

② 試算表(直近月まで)

  • なぜ必要か:
    決算書は最大1年前の情報です。決算から「今」までの最新の経営状況(売上、利益)を示すために必要です。
  • 銀行の視点(コンサルタントの知見):
    • スピード感:
      銀行担当者から「直近の試算表をお願いします」と言われた際、「今、税理士に依頼してます…」と答える経営者がいますが、これは「経営者が自社の数字をリアルタイムで把握していない」と見なされ、心証が非常に悪いです。
    • 理想のスピード:
      理想は「月次決算」が翌月10~15日までに締まり、15~25日には銀行に提出できる体制です。これができる会社は「経営管理能力が高い」と評価されます。
    • 決算書からのトレンド:
      決算書が黒字でも、直近の試算表で赤字が垂れ流しになっていれば、「業績下降局面」と判断され、審査は厳しくなります。
  • 作成のコツ:
    • 必ず「前年同月比」や「計画比」を併記し、現状が良いのか悪いのか、その要因は何かをコメントできるようにしておきましょう。

③ 事業計画書

  • なぜ必要か:
    会社の「未来の設計図」です。融資した資金を「何に使い」「どうやって売上・利益を増やし」「どうやって返済していくか」を示す、最重要書類の一つです。
  • 銀行の視点(コンサルタントの知見):
    • 「絵に描いた餅」か?:
      「売上が前年比150%!」といった希望的観測だけの計画書は、即座に見抜かれます。
    • 銀行が見たいのは「根拠」:
      なぜ売上が上がるのか?(例:新規顧客A社との取引開始で月50万増、既存顧客B社の単価アップで月10万増…など)具体的な行動計画(アクションプラン)と数字が紐づいているか、そしてそれを社長が説明できるかどうかです。
    • 保守的な計画か:
      私がコンサルティングで指導するのは「売上は保守的(堅めに8割程度)に、経費は多め(1.2倍程度)に」見積もる、という考え方です。それでも利益が出て、返済が可能であることを示せれば、銀行は「堅実な経営者だ」と評価します。
  • 作成のコツ:
    • 金融機関指定のフォーマットがない限り、A4数枚で構いません。「自社の強み」「市場環境」「具体的な行動計画」「数値計画(損益・資金繰り)」を分かりやすく記載してください。

④ 資金繰り表(実績・予定)

  • なぜ必要か:
    損益計算書(P/L)の「利益」と、会社の「現金(キャッシュ)」の動きは一致しません。利益が出ていても資金ショート(黒字倒産)するリスクがないかを確認する、最重要書類です。
  • 銀行の視点(コンサルタントの知見):
    • (実績)過去の現金の流れを経営者が正確に把握しているか。
    • (予定)融資実行後、今回の融資の「返済」が始まっても、資金繰りが回るか? 銀行はここをシミュレーションしています。
    • ある小売業のD社は、売上が急拡大しP/Lは黒字でしたが、仕入(現金支出)が先行し、資金繰りが悪化していました。銀行は「利益は出ているが、これ以上売上が伸びると(運転資金が増え)危険だ」と判断し、運転資金の融資を実行しました。資金繰り表がなければ、この判断はできませんでした。
  • 作成のコツ:
    • 最低でも「経常収支(本業の儲け)」「設備収支(設備投資など)」「財務収支(借入・返済)」の3分類で作成し、経営者自身が説明できるようにしてください。

⑤ 納税証明書

  • なぜ必要か:
    国民(法人)の義務である「納税」を果たしているか。これは社会的な信頼性の証です。
  • 銀行の視点(コンサルタントの知見):
    • 滞納は「絶対NG」です。 税金を滞納している=資金繰りが相当悪化している、と見なされます。融資審査の土俵にすら乗れません。
    • 税金の優先順位は、銀行返済よりも上です。銀行は「我々が融資したお金が、滞納している税金の支払いに充てられる」ことを最も嫌います。
  • 作成のコツ:
    • 「法人税(国税)」は税務署で、「法人事業税・住民税(地方税)」は都道府県税事務所(または市区町村)で取得します。早めに準備しましょう。

⑥ 商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)

  • なぜ必要か:
    会社の「公式な身分証明書」です。法的に存在し、代表者が誰で、資本金がいくらかを確認します。
  • 作成のコツ:
    • 法務局で取得します。通常、「発行から3ヶ月以内」のものを要求されます。

⑦ 印鑑証明書(法人・代表者個人)

  • なぜ必要か:
    最終的な契約(金銭消費貸借契約)時に、押印する印鑑が本物であることを証明するためです。
  • 作成のコツ:
    • 「法人(実印)」は法務局、「代表者個人(実印)」は市区町村役場で取得します。保証協会の保証を付ける場合や、代表者が個人として連帯保証人になる場合、個人のものも必要になります。

【B】補足書類:提出を求められた場合のポイント

必須ではないものの、銀行や状況によって求められる書類です。

① 定款(写し)

会社の根本ルール(事業目的など)を確認するためです。「現行定款(最新のもの)」を提出します。

② 借入状況一覧表

他行からの借入残高、金利、返済状況を一覧にしたものです。銀行は他行との取引状況を知りたがっています。

③ 企業概要書(会社案内・パンフレット

事業内容を視覚的に理解してもらうための補足資料です。Webサイトのコピーでも構いません。


【C】状況別・目的別で必要となる追加書類

創業期、設備投資、業績不振など、特定の状況下で追加される書類です。

① 創業期・1期目未了の場合

  • 追加書類:
    創業計画書(日本政策金融公庫のフォーマットが分かりやすい)
    代表者個人の通帳(自己資金の確認)
    (法人成りの場合)前身の個人事業主時代の確定申告書
  • コンサルタントの知見:
    • 過去の実績がないため、「自己資金」と「事業計画の具体性」が全てです。
    • 自己資金の見せ方が重要です。「タンス預金」はNG。コツコツ貯めてきた経緯が分かる「個人の通帳(半年〜1年分)」の提出が求められます。親からの贈与なども正直に説明し、資金の出所を明確にしてください。

② 設備投資で融資を受ける場合

  • 追加書類:
    投資対象の見積書
    カタログ
    (不動産の場合)物件の資料や登記簿謄本など
  • コンサルタントの知見:
    • 資金使途が明確なため、融資は比較的通りやすいです。
    • ポイントは「なぜその投資が必要で、導入後にどれだけの収益改善(売上増またはコスト減)が見込めるか」を事業計画書で示すことです。「その投資でいくら売上が上がるか?」ではなく、「いくら『利益』が残り、返済原資(=税引後利益+減価償却費)をいくら生み出すか」を具体的に示す必要があります。

③ 業績不振時・追加融資の場合

  • 追加書類:
    経営改善計画書
  • コンサルタントの知見:
    • これは通常の事業計画書よりシビアです。「なぜ業績不振に陥ったか」の冷静な原因分析と、「具体的な行動計画(KPI)」が必須です。
    • 精神論(「頑張ります」)ではなく、「数字」と「行動」です。売上回復策だけでなく、聖域なきコストカット(役員報酬のカット、不採算事業の撤退など)の覚悟を示すことが、金融機関の信頼を得るために重要です。
    • 多くの場合、銀行から認定支援機関(私のようなコンサルタントや税理士)の支援を受けて作成するよう求められます。

書類準備から融資実行までの5ステップと注意点

書類の準備をスムーズに進めるための流れと、絶対にやってはいけないNG行動を解説します。

  • ステップ1:事前相談(銀行・専門家)
    • まずは取引銀行の担当者、または顧問税理士や私のような財務コンサルタントに「こういう目的で融資を受けたい」と相談します。ここで必要な書類リストが確定します。
  • ステップ2:書類の収集・作成
    • 自社で作成するもの(事業計画書など)と、外部で取得するもの(登記簿謄本)を分担して、効率的に進めます。
  • ステップ3:申込・書類提出
    • 【最重要】スピードが命です。
    • 銀行から「〇〇の書類を追加でお願いします」と依頼されたら、可能な限り迅速(できれば1〜2営業日以内)に提出してください。
    • 対応が遅いと、「この会社は経営管理体制がルーズだ」「融資への熱意が低い」と見なされ、審査に悪影響が出ます。私が支援する際は、このレスポンス速度を徹底的に管理します。
  • ステップ4:面談(経営者ヒアリング)
    • 提出した書類(特に事業計画書)に基づき、経営者本人が事業の状況や今後の展望を説明します。税理士や専門家任せにせず、自分の言葉で熱意と計画の具体性を伝えてください。
  • ステップ5:審査・融資実行
    • 審査(通常1週間〜1ヶ月程度)を経て、承認が下りれば契約手続き、そして融資が実行(指定口座に入金)されます。

銀行融資の必要書類に関するFAQ(よくある質問)

Q1. 赤字決算でも融資は受けられますか?

  • A1. 可能性はあります。ただし、①赤字の理由(一時的なものか、構造的なものか)と、②黒字化への具体的な事業計画(または経営改善計画書)、③直近の試算表で改善傾向が見えること、が条件です。「赤字だからダメ」ではなく、「赤字をどう改善するか」のロジックが問われます。

Q2. 創業1年未満で決算書がありません。何が必要ですか?

  • A2. 決算書がないため、「創業計画書(事業計画書)」、「自己資金を証明するもの(個人の通帳など)」、「試算表(数ヶ月分でも可)」が中心となります。代表者の過去の経歴(同業種での経験など)も重視されます。

Q3. 書類作成はすべて税理士に任せても良いですか?

  • A3. NGです。決算書や試算表の作成(記帳代行)は税理士の業務ですが、「事業計画書」や「資金繰り表」の中身は、経営者自身が誰よりも深く理解し、説明できなければなりません。銀行は「社長の口から」事業の未来を聞きたいのです。丸投げは面談で必ず見抜かれます。

Q4. 日本政策金融公庫と銀行(信用保証協会付)では必要書類が違いますか?

  • A4. 基本的な考え方(決算書、計画書、試算表)は同じですが、フォーマットが異なります。日本政策金融公庫は独自の「創業計画書」や「企業概要書」の書式があります。一般的に、民間の銀行(信用保証協会付)の方が、求められる書類の種類は多くなる傾向があります。

Q5. 書類提出が遅れると、どんなデメリットがありますか?

  • A5. 融資実行が遅れる(資金が必要な時期に間に合わない)のが直接的なデメリットです。それ以上に、「経営管理がルーズな会社」「熱意がない」というマイナス評価を受け、審査そのものに悪影響が出る(例:減額される、金利が高くなる)可能性があります。

まとめと次のアクション

銀行融資の必要書類は、過去(決算書)、現在(試算表)、未来(事業計画書)のすべてを銀行に伝え、信頼を勝ち取るための「会社のプレゼン資料一式」です。

書類一枚一枚には意味があり、銀行はそこからあなたの会社の「本気度」と「管理能力」を見ています。

この記事を参考に、万全の準備で融資審査に臨んでください。

【次のアクション】

  1. すぐに: 取引銀行の担当者、または顧問税理士や財務コンサルタントに「融資の相談」をする。
  2. 正確に: この記事のリストを参考に、必要な書類を確認し、不備なく準備する。
  3. 迅速に: 銀行から依頼された書類は、スピード感を持って提出する。

「自社の決算書で融資が通るか不安だ」
「事業計画書の作り方がわからない」
「銀行との交渉をどう進めればいいかアドバイスが欲しい」

このように、銀行融資の書類準備や資金繰りにお悩みの経営者の方は、ぜひ一度、当社の財務コンサルタント(資金繰りアドバイザー)にご相談ください。

貴社の状況をヒアリングし、最適な融資戦略と書類準備をサポートします。

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