『資金繰り表作成&活用マニュアル』

「決算書を見たら、純資産の部がマイナスになっていた」
「税理士から『このままでは債務超過です』と警告された」

もし今、あなたがそのような状況にあるなら、この記事はあなたのためのものです。

債務超過は、会社の資産をすべて売り払っても借金を返せない状態を指しますが、
「債務超過=即倒産」ではありません。

実際、私が担当した年商5億円規模の製造業のお客様でも、深刻な債務超過から3年でV字回復を果たした事例は数多く存在します。

しかし、放置すれば銀行の態度は硬化し、資金繰りは急速に悪化します。

本記事では、いくつかの企業再生に関わってきた財務コンサルタントの視点から、債務超過の正しい判定方法、銀行員が現場で見ているポイント、そして会社を潰さないための具体的な解消ステップを解説します。


債務超過とは?経営者が知るべき「本当の意味」

(※一般的な定義解説ですが、経営者向けに視座を上げます)

債務超過とは、貸借対照表(B/S)において「負債の総額」が「資産の総額」を上回っている状態です。
会計上は「純資産がマイナス」と表現されます。

「赤字」や「資金ショート」との決定的な違い

よく混同されますが、これらは全く別の概念です。
経営判断を誤らないために区別してください。

  • 赤字(損益計算書): 一定期間(1年など)の商売の結果、損失が出た状態。資産があれば会社は潰れません。
  • 債務超過(貸借対照表): 過去の赤字が積み重なり、会社の体力がマイナスになった状態。信用力に関わります。
  • 資金ショート(キャッシュフロー): 手元の現金が尽きる状態。これが起きると会社は倒産します。

【コンサルタントの視点】 債務超過でも現金さえあれば会社は回ります。しかし、それは「時限爆弾」を抱えているのと同じです。銀行からの新規融資が止まれば、いずれ資金ショートを引き起こすからです。


決算書だけでは見えない?「実態貸借対照表」での判定

ここが最も重要なポイントです。

中小企業の現場では、決算書上の数字と、実態の数字が乖離していることが多々あります。
我々専門家や金融機関は、決算書を修正した「実態貸借対照表(実態B/S)」で債務超過かどうかを判定します。

あなたの会社は大丈夫?実態修正のチェックポイント

以下の項目を資産からマイナス(減額)して計算し直してください。決算書上は資産超過でも、実態は債務超過に転落しているケース(実質債務超過)が非常に多いのが現実です。

  1. 回収不能な売掛金: 倒産した取引先への債権や、長期間回収されていない売掛金。
  2. 不良在庫: 何年も倉庫に眠っている製品、陳腐化した原材料。
  3. 価値のない固定資産: バブル期に高値で買ったが、現在は二束三文の土地や建物、ゴルフ会員権。
  4. 役員への貸付金: 社長個人へ会社が貸しているお金で、返済の目処が立たないもの(銀行はこれを資産と見なしません)。

【事例解説】なぜ債務超過に陥るのか?現場で見る3つのパターン

私が相談を受ける中で特に多い、典型的なパターンをご紹介します。

パターン1:大型投資の失敗と借入過多(年商8億円・製造業A社の事例)

A社は新工場建設のために多額の借入を行いましたが、稼働率が計画の50%に留まりました。
借入金の利息負担と減価償却費が重くのしかかり、毎年の赤字が資本金を食いつぶし、わずか3年で債務超過へ転落しました。

  • 教訓: 投資判断の甘さと、撤退ラインの未設定が原因です。

パターン2:粉飾決算の是正(年商3億円・卸売業B社の事例)

銀行融資を受けるために、長年在庫を水増し計上していたB社。事業承継を機にクリーンな決算へ修正したところ、一気に5,000万円の債務超過が表面化しました。

  • 教訓: 過去のツケは必ず回ってきます。早い段階での膿出しが必要です。

パターン3:特別損失などの突発的要因


放置するとどうなる?金融機関のリアルな反応

債務超過になると、銀行の視線は厳しくなります。
「貸し渋り」「貸し剥がし」といった言葉が頭をよぎるかもしれませんが、実際には以下のような段階を踏みます。

格付けダウンと「正常先」からの転落

銀行内部の格付け(債務者区分)において、債務超過企業は基本的に「要注意先」以下、場合によっては「破綻懸念先」に分類されます。
こうなると、プロパー融資(信用保証協会なしの融資)の新規実行はほぼ不可能になります。

実際にあった「融資一本化」の拒否事例

ある建設会社では、手形貸付の書き換えを長年認めてもらっていましたが、債務超過が2期続いた時点で「今回は書き換えできません。期日通りの返済をお願いします」と通告されました。
メインバンクとの関係性が良好でも、ルール上できないラインがあるのです。


債務超過を解消する4つのフェーズと具体的アクション

ここからは、実際に私が支援に入る際、どのような手順で再建を図るか、そのロードマップを公開します。

フェーズ1:PL(損益)改善による自力再建

まずは「止血」です。黒字化しなければ、純資産は増えません。

  • 役員報酬の適正化: 経営責任の明確化として、まずはここから着手します。その覚悟が必要です。
  • 不採算部門の撤退: 売上は減っても、利益が出る体質へ筋肉質化します。

フェーズ2:B/S(貸借)改善・資本政策

利益の積み上げだけでは時間がかかりすぎる場合、資本政策を用います。

  • DES(デット・エクイティ・スワップ): 社長が会社に貸しているお金(役員借入金)がある場合、それを「資本金」に振り替えます。借金が消え、資本が増えるため、一瞬で債務超過が解消する強力な手法です。
    • 注意点: 税務上の論点(債務消滅益)があるため、必ず専門家と連携して行います。
  • 増資: スポンサーや親族からの出資を募ります。

フェーズ3:金融機関へのリスケジュール要請

自力での返済が困難な場合、銀行へ「返済猶予(リスケジュール、いわゆるリスケ)」を依頼します。
「経営改善計画書」を作成し、「〇年後には債務超過を解消できます」という根拠を示すことで、元本返済を一時的にストップし、資金繰りを安定させます。

フェーズ4:抜本的な再生スキーム(M&A・第二会社方式)

上記の手法でも解消できない場合、事業の価値を守るために「外科手術」を行います。

  • スポンサー型M&A: 財務が悪化していても、技術や顧客基盤に価値があれば、買い手が見つかる可能性は十分にあります。
  • 第二会社方式: 収益性の高い事業だけを新会社へ移し、旧会社(負債が残った会社)を特別清算する方法です。

債務超過でもM&Aで会社は売れるのか?

結論から言えば、売れます。 ただし、条件があります。

買い手企業が見ているのは「過去の負債」よりも「将来生み出すキャッシュフロー」です。
負債ごと引き受ける株式譲渡はハードルが高いですが、「事業譲渡」であれば、優良な事業だけを切り出して売却することが可能です。 実際に、債務超過で廃業を考えていた運送会社が、大手物流グループに事業譲渡を行い、従業員の雇用と取引先を守れた事例もあります。


まとめ:早期の「実態把握」が生存率を分ける

債務超過は、経営における「病」のようなものです。初期段階で気づき、治療(対策)を始めれば、完治してさらに強い会社になることができます。しかし、隠蔽したり放置したりすれば、手遅れになります。

もし今、資金繰りや決算内容に不安があるならば、まずは「実態B/S」を作成し、自社の現在地を正しく把握することから始めてください。
顧問税理士だけでなく、再生実務に強い専門家のセカンドオピニオンを聞くことも、有効な一手となるはずです。

よくある質問(FAQ)

  • Q: 債務超過は何年以内に解消しなければなりませんか?
    • A: 金融機関との協議によりますが、一般的にリスケジュール中であれば「計画策定から3年〜5年以内」での実質的な債務超過解消が求められます。これが「計画の実効性」を判断する基準となります。
  • Q: 役員借入金のDES(資本組入)は誰でもできますか?
    • A: 社長が会社に対して債権(貸付金)を持っていれば可能です。ただし、擬似DESとみなされないための手続きや、債務消滅益課税のリスク回避など、高度な税務判断が必要ですので、必ず実行前にご相談ください。
  • Q: 債務超過のまま融資を申し込んでも審査に通りますか?
    • A: 通常の審査では非常に厳しいです。ただし、経営改善計画書を提出し、金融機関の合意を得た上での「協調融資」や、資本性ローンの活用など、例外的な道は残されています。