【監修者プロフィール】
合同会社スタイルマネジメント 佐藤恵介
経済産業省 認定経営革新等支援機関
『資金繰り表作成＆活用マニュアル』マネジメント社 2025年11月 共同著者
資金繰り改善、銀行対応（資金調達）、経営計画書作成、売上・利益改善などと支援する財務コンサルタント

『資金繰り表作成＆活用マニュアル』

2025年11月 マネジメント社より共同出版
Amazonにて発売中

「銀行から『次はプロパーでどうですか』と提案されたが、保証協会付きと何が違うのか？」

「創業からずっと保証協会付きだが、そろそろプロパー融資に挑戦すべきか？」

経営拡大の局面において、資金調達の選択肢は企業の生命線を左右します。

特に銀行融資における「信用保証協会付き融資」と「プロパー融資」の違いは、単なる制度の違いにとどまりません。
これは、銀行があなたの会社をどう評価しているか（格付け）のバロメーターでもあります。

この記事では、数多くの中小企業の資金繰りを支援してきた財務コンサルタントの視点から、両者の仕組みの違いだけでなく、銀行員が審査で見ているリアルなポイントや、有利な条件で資金を調達するための「使い分け戦略」まで踏み込んで解説します。

保証協会付き融資とプロパー融資の決定的な違い

まず、両者の決定的な違いは「誰が貸し倒れリスクを負うか」という点にあります。

１． 保証協会付き融資（３者間契約）

銀行と企業の間に公的機関である「信用保証協会」が入る仕組みです。

万が一、企業が返済不能になった場合、信用保証協会が銀行に対して借入金の80％〜100％を立て替え払い（代位弁済）します。

銀行にとっては「リスクが低い」ため、実績の少ない企業でも融資を受けやすいのが特徴です。その代わり、企業は金利とは別に「信用保証料」を協会に支払う必要があります。

２． プロパー融資（２者間契約）

銀行と企業が直接契約を結ぶ、本来の形の融資（Proper＝固有の、本来の）です。

保証協会が入らないため、万が一貸し倒れが起きれば、銀行が損失を100％被ります。

そのため、銀行は「絶対に返済できる」と判断した信用力の高い企業にしかプロパー融資を行いません。つまり、プロパー融資を受けられることは、「銀行から一人前の企業として認められた証（信用力の証明）」と言えます。

７つの項目で比較するメリット・デメリット徹底比較表

実務において、経営者が押さえておくべき違いを一覧にしました。

比較項目保証協会付き融資プロパー融資
審査の難易度低め（創業期・赤字でも可能性あり）高い（実績・財務内容重視）
審査スピード遅め（銀行と協会の2ヶ所で審査）早い（銀行内だけの決裁）
借入限度額原則：無担保8,000万円（※制度による）理論上は上限なし（信用力次第）
金利金利＋保証料が必要（トータルコストは高くなる傾向金利のみ（信用力が高ければ低金利も可能）
借入期間長期（7年〜10年）が組みやすい短期（1年以内）が基本、長期はハードル高
連帯保証人原則不要（経営者保証ガイドラインの適用など）代表者の連帯保証を求められることが多い
銀行との関係リスクが低いため銀行は提案しやすいメインバンクとしての関係構築に直結
手数料保証料がかかる原則無し

【プロの視点】
多くの経営者が気にされる「金利」ですが、実はプロパー融資だからといって必ずしも低金利とは限りません。信用力が十分でない段階で無理にプロパーで借りると、リスクヘッジのために高めの金利設定になることもあります。
「プロパー＝安い」ではなく「プロパー＝信用の証」と捉えるのが正解です。

どっちを選ぶべき？会社の成長フェーズ別「使い分け戦略」

「自社はどちらを選ぶべきか？」という問いへの答えは、会社の成長フェーズによって異なります。私が現場でアドバイスしているロードマップをご紹介します。

フェーズ１：創業〜年商１億円未満（実績作り期）

→【保証協会付き融資】を最大限活用する

その金融機関から初めて融資を受ける場合は、保証協会付き融資が基本です。
この時期は、まだ銀行独自の審査基準（格付け）を満たすのが難しいため、保証協会のサポートが不可欠です。まずは保証付き融資で「借りて、しっかり返す」という返済実績を積み上げることが最優先です。

フェーズ２：年商１〜３億円・黒字安定期（移行準備期）

→【保全付きプロパー】または【抱き合わせ融資】を狙う

業績が安定してきたら、すべてを保証協会付きにするのではなく、プロパーへの足がかりを作ります。

  • 抱き合わせ融資（協調融資）：
    例えば2,000万円の融資に対し、1,500万円を保証協会付き、5,000万円をプロパーで組む手法です。銀行のリスクを限定しつつ、プロパーの実績を作れます。

フェーズ３：年商３億円以上・財務安定（信用拡大期）

→【プロパー融資】をメインにし、保証枠を温存する

信用力が高まれば、運転資金はプロパーで調達します。

ここで重要なのは「保証協会の枠を空けておく」という戦略です。
保証協会の枠（一般枠8,000万円など）は、景気悪化や突発的な事態（コロナ禍のような危機）の際の「命綱」になります。平時はプロパーで回し、有事の際に保証協会を使うのが、財務戦略の上級テクニックです。

銀行員はここを見ている！審査通過率を上げる「決算書」のポイント

プロパー融資を引き出すために、銀行員は決算書のどこを見ているのでしょうか？私が銀行との交渉に同席する際、特に重要視される指標をこっそりお伝えします。

１．債務償還年数（さいむしょうかんねんすう）

「今の借金を、毎年の稼ぎ（キャッシュフロー）で何年かかって返せるか」という指標です。

  • 計算式： （有利子負債 − 現預金） ÷ （営業利益 ＋ 減価償却費）
  • 目安： 10年以内がプロパー融資の合格ラインと言われています。これが15年、20年を超えていると、プロパー審査の土俵に乗るのは難しくなります。

２．自己資本比率

会社の安全性を示します。業種にもよりますが、30%以上あると銀行からの評価は格段に高まります。逆に債務超過（資産より負債が多い状態）の場合、プロパー融資は原則「不可」となります。

３．経常利益に関する指標

・総資本経常利益率 ３％以上
　現状保有している会社の総資産から、どれだけの経常利益を出しているか？経営の効率性を見ています。

・売上高経常利益率 ３％以上
　会社の収益性を見ています。

４．試算表の提出スピードと精度

意外に見落とされがちですが、「試算表（月次決算）が翌月20日以内に出てくるか」は大きな審査材料です。

「数字をリアルタイムで把握している経営者＝管理能力が高い＝貸しても安心」と判断されるからです。決算から2~3ヶ月以上経ってから試算表を出してくるような会社には、銀行は怖くてプロパー融資を出せません。

事例公開：保証協会付きからプロパー融資へ「卒業」したA社の話

ここでは、私が支援させていただいた製造業A社（特定を避けるため一部数値を加工しています）の事例を紹介します。

【状況】

  • 創業6年目、年商2億円。
  • 借入金5,000万円はすべて「保証協会付き」。
  • 社長は「金利が高いし、毎回保証料を取られるのが痛い」と不満を持っていた。

【実施した対策】

A社の決算書を分析すると、利益は出ていましたが現預金が少なく、見かけ上の資金繰りが忙しい状態でした。そこで以下の3ステップを実行しました。

  1. 情報開示の徹底： 毎月、銀行支店長へ試算表・資金繰り表を持参し、社長自ら業況報告を行うように変更。「隠し事のない会社」という信頼関係を作りました。
  2. 定期預金の積立： 月々の利益から少しずつ定期積立を行い、銀行に対して「実質的な担保（保全）」を見せました。
  3. 「折り返し融資」での交渉： 既存の保証協会付き融資の返済が進んだタイミングで、「今回は半分をプロパーでお願いできませんか？」と交渉。

【結果】

約1年後、運転資金3,000万円の融資において、「1,000万円プロパー・2,000万円保証付き」の協調融資に成功。これを皮切りにプロパー比率を徐々に高め、現在は借入の6割をプロパー融資に切り替えることができました。結果として、年間数十万円単位でのコスト削減と、迅速な資金調達ルートを確立しています。

よくある質問（FAQ）

Q1. 一度プロパー融資を断られたら、もう借りられませんか？

いいえ、そんなことはありません。その時点では「時期尚早」と判断されただけです。決算内容を改善し、債務償還年数などの数値を良化させれば、再チャレンジは十分に可能です。まずは断られた理由（業績なのか、資料不足なのか）を分析することが先決です。

Q2. 赤字でもプロパー融資は受けられますか？

非常にハードルは高いですが、不可能ではありません。「一過性の赤字（為替差損や突発的な修繕など）であり、本業は黒字であること」や「来期には確実に黒字転換できる根拠」を合理的に説明できれば、検討の余地はあります。ただし、基本的には保証協会付き融資を勧められるケースが大半です。

Q3. プロパー融資に切り替えるデメリットはありますか？

銀行との関係が悪化した際に、「貸し剥がし（返済を迫られる）」や「融資の打ち切り」のリスクが、保証協会付きよりもダイレクトに発生しやすい点です。公的な守りがない分、銀行との信頼関係維持がよりシビアになると考えてください。

まとめ：最適な資金調達で事業成長を加速させる

保証協会付き融資とプロパー融資、どちらが優れているかという二元論ではありません。重要なのは、「自社のフェーズに合わせて最適な手段を選べているか」です。

  • 守りの時期は、コストを払ってでも保証協会で確実に借りる。
  • 攻めの時期は、プロパー融資で信用力を示し、機動的に資金を動かす。

この使い分けができる経営者こそが、永続的に成長する企業を作ることができます。

もし、「自社の決算書でプロパー融資が引けるのか診断してほしい」「銀行にどうプレゼンすれば良いかわからない」とお悩みであれば、ぜひ一度専門家へご相談ください。金融機関が納得するロジックを組み立てることが、資金調達成功への近道です。