『資金繰り表作成&活用マニュアル』

「毎月の返済日が近づくと、胃がキリキリする……」
「利益は出ているはずなのに、なぜか手元に現金が残らない」

もし社長がこのような悩みをお持ちなら、銀行融資の「借換え(借り換え)」が現状を打破するの一手になるかもしれません。

多くの経営者は「借換え=金利を下げること」と考えがちです。
しかし、私が数多くの財務支援の現場で見てきた「借換えの真の価値」はそこにありません。
真の目的は、返済期間を見直し、月々の返済額を圧縮して「手元のフリーキャッシュフロー(自由に使えるお金)」を最大化することにあります。

本記事では、財務コンサルタントとして長年中小企業の資金繰りを支援してきた経験に基づき、銀行員との交渉術から、審査を有利に進めるための「月次決算」の活用法まで、実務の裏側を包み隠さず解説します。


銀行融資の「借換え」とは?経営者が知るべき3つの効果

借換えとは、既存、または新たな金融機関から新たな融資を受け、その資金で現在の借入金を一括返済することです。しかし、単に借入先が変わるだけではありません。経営戦略上、以下の3つの絶大な効果があります。

1.月々の返済額の圧縮(資金繰りの改善)

これが最大のメリットです。
例えば、残存期間が残り3年の融資を、借換えによって新たに「期間10年」で組み直せば、毎月の元金返済額は劇的に下がります。この「浮いたお金」こそが、次の事業投資や不測の事態への備えとなります。

2.バラバラの借入の一本化(事務コスト削減)

創業期から継ぎ足しで借りてきた結果、「A銀行から3口、B信用金庫から2口、毎月返済日が5回もある」という状態になっていませんか? これらを一本化することで、資金管理の手間が減り、経理担当者や社長自身の精神的負担が軽くなります。

3.金利コストの削減(PL改善)

高い金利で借りていた過去の融資を、現在の低金利環境に合わせて借り直すことで、支払利息を削減できます。ただし、後述しますが、これはあくまで「副次的な効果」と捉えるべきです。


【現場の事例】借換えで「会社が変わった」2つのケース

私が実際に支援の現場で携わった事例を、特定できないよう一部加工してご紹介します。これらは特別な魔法ではなく、正しい手順を踏めばどの企業でも再現可能な話です。

ケースA:年商3億円・製造業(多重債務からの脱却)

【課題】 設備投資のたびに別々の証書貸付(長期借入金)を組んでおり、借入口数は合計12本。毎月の返済額が300万円を超え、少しでも売上が落ちると資金ショート寸前という自転車操業状態でした。

【対策と結果】 月次決算の体制を整え、直近の試算表を持ってメインバンク以外の地銀へアプローチ。「既存借入をすべてまとめて、期間15年で借り直したい」と打診しました。 結果、毎月の返済額は300万円→180万円へと激減。年間1,400万円以上のキャッシュが手元に残るようになり、それを原資に老朽化した機械の入替に成功しました。

ケースB:年商10億円・卸売業(攻めの借換え)

【課題】 業績は好調でしたが、過去の融資にすべて「経営者保証」が入っており、社長は「万が一の時、家族に迷惑がかかる」と事業承継を躊躇していました。

【対策と結果】 財務内容が良いタイミングを見計らい、プロパー融資(信用保証協会付きではない融資)への借換え交渉を実施。「経営者保証の解除」を条件に複数の銀行を競わせました。 結果、金利は0.2%上がりましたが、社長の個人保証はすべて解除。心理的な重圧から解放され、社長は息子への事業承継を本格的にスタートさせました。


審査のカギは「月次決算」にあり!銀行員が見ているポイント

借換えを成功させるためには、銀行の審査に通らなければなりません。ここで多くの企業が躓く原因が「試算表(月次決算書)の精度の低さと遅さ」です。

銀行員は「数字の鮮度」を信頼の証とする

「借換えをお願いしたい」と銀行に行っても、提示した試算表が3ヶ月前のものでは、銀行員はこう思います。「この社長は、今の会社の数字を把握していないのか?」と。 管理能力を疑われれば、審査のハードルは上がります。
逆に、面談したその日に「先月末までの締まった試算表」が出てくれば、それだけで「管理が行き届いている企業だ」という加点評価になります。

資金繰り表が「未来の返済能力」を証明する

借換え審査で最も重視されるのは「返済財源」です。 過去の決算書(PL/BS)はあくまで過去の結果。銀行員が知りたいのは「借換えた後、将来にわたって返済できるか」です。
そのため、私たちは必ず「向こう1年間の資金繰り予定表」を作成し、借換えによってキャッシュフローがどう良くなるかを可視化して提出します。口頭で「大丈夫です」と言うより、1枚の資金繰り表の方が銀行を説得する力は何倍も強いのです。


銀行が「借換え」に応じる裏事情と交渉テクニック

銀行も商売です。彼らの心理を理解することで、交渉を有利に進めることができます。

1. 新規銀行へのアプローチ:「他行の借入を奪いたい」

銀行にとって、他行の融資を自行で借換えさせる(=肩代わりする)ことは、貸出残高を一気に増やせるチャンスです。 特に、毎月きちんと返済実績がある企業は、銀行にとって喉から手が出るほど欲しい優良顧客。
「現在は◯◯銀行さんがメインですが、条件次第では御行とお付き合いを深めたい」という姿勢を見せることで、好条件を引き出しやすくなります。

2. 既存銀行への交渉:「他行に取られるくらいなら」

既存の銀行に「他行から借換えの提案を受けている」と相談するのも有効です。銀行にとって、既存貸出先を他行に奪われるのは大きな失点。 「金利を下げてくれたら、このまま御行で借りますよ」という交渉カードとして使えます。ただし、これは関係性を損ねないよう、慎重かつ丁重に行う必要があります。


借換えを検討すべきタイミングと判断基準(損益分岐点)

一般的に言われる「借換えメリットの目安」は以下の通りです。

  • 借入残高: 1,000万円以上残っている
  • 残存期間: 返済期間が残り5年以上ある

しかし、財務コンサルタントの視点では、これに当てはまらなくても借換えを推奨するケースがあります。

それは「資金繰りが厳しいとき」です。 たとえ金利が下がらない(あるいは手数料を含めるとトントン)であっても、返済期間を延ばして毎月のキャッシュアウトを減らせるなら、やる価値は十分にあります。
「目先の損得(金利)」よりも「会社の生存(キャッシュフロー)」を優先すべき局面があることを忘れないでください。


借換えの具体的フローと注意点

  1. 現状把握: すべての借入明細(返済予定表)を一覧化する。
  2. 資料準備: 直近の決算書3期分、直近の試算表、資金繰り表を準備する。
  3. 銀行打診: 複数の金融機関に相談を持ちかける(※既存行への仁義は忘れずに)。
  4. 審査・条件提示: 銀行から提示された条件(金利、期間、担保、保証)を比較検討する。
  5. 契約・実行: 新しい銀行と契約し、融資実行と同時に古い借入を返済する。

【最大の注意点】 借換え実行日と、既存借入の完済日は「同日」でなければなりません。また、既存銀行への解約手続き(繰上返済の申し入れ)は、新しい銀行の審査が「確約」となってから行ってください。フライングで解約を申し出た後に審査落ちすると、既存銀行との関係が悪化するだけで終わってしまいます。


よくある質問(FAQ)

Q. 赤字決算でも借換えはできますか?

A. 可能です。ただし、ハードルは上がります。 「なぜ赤字になったのか(一過性か構造的か)」と「どうやって黒字化するか」を説明する『経営改善計画書』の提出が必須となるでしょう。しっかりとした試算表と改善計画があれば、支援してくれる金融機関は必ずあります。諦めずに専門家へ相談してください。

Q. リスケ(返済猶予)中ですが、借換えで正常化できますか?

A. 非常に難易度が高いですが、方法はあります。 信用保証協会の「借換保証制度」などを活用し、経営改善計画の進捗が順調であることを証明できれば、借換えによって正常返済に戻せる可能性があります。これは高度な交渉が必要ですので、独断で進めず専門家のサポートを受けることをお勧めします。

Q. 違約金がかかると聞きました。

A. はい、既存の借入を期限前に返すことで「繰上弁済手数料」や「違約金」が発生する場合があります。 しかし、そのコストを払ってでも、長期的なキャッシュフロー改善効果が上回るケースがほとんどです。シミュレーションを行い、トータルのメリット・デメリットを判断します。


まとめ:借換えは「会社を強くする」ための攻めの財務戦略

借換えは、単なる「借金の整理」ではありません。 毎月の資金繰りを良化させ、社長が本業に集中できる環境を作るための、最も即効性のある財務戦略です。

しかし、銀行との交渉や、審査を通すための資料作り(特に精度の高い月次決算や資金繰り表)は、日常業務と並行して行うには大きな負担がかかります。

「自社の場合、どれくらい返済額が減るのか?」 「今の決算書で審査に通るのか?」

少しでも疑問を感じたら、まずは資金繰りと財務の専門家にご相談ください。 実績と経験に裏打ちされたノウハウで、御社のキャッシュフローを改善するお手伝いをいたします。