
【監修者プロフィール】
合同会社スタイルマネジメント 佐藤恵介
経済産業省 認定経営革新等支援機関
『資金繰り表作成&活用マニュアル』マネジメント社 2025年11月 共同著者
資金繰り改善、銀行対応(資金調達)、経営計画書作成、売上・利益改善などと支援する財務コンサルタント

『資金繰り表作成&活用マニュアル』
2025年11月 マネジメント社より共同出版
Amazonにて発売中
新たな設備投資や事業拡大フェーズにおいて、数千万円から億単位の資金が必要になったとき、メインバンク1行だけの借入に依存していませんか?
我々が普段、財務コンサルティングの現場で経営者様にお伝えしているのは、
「公庫を巻き込んだ協調融資こそ、銀行交渉における最強のカードである」ということです。
協調融資は、単に「公庫と民間銀行が一緒にお金を貸してくれる」だけの仕組みではありません。
適切に活用すれば、調達総額のキャップ(上限)を外し、加重平均金利を下げ、さらにメインバンクとの関係を健全な緊張感のあるものへと変えることができます。
本記事では、年商1億〜10億円規模の経営者に向けて、教科書的な説明ではなく、現場の支援実績に基づいた「協調融資の戦略的活用法」と「審査通過のリアリティ」について解説します。
1.経営者が知るべき「協調融資」の本質的メリット
一般的に、協調融資は「日本政策金融公庫(以下、公庫)と民間金融機関が連携して融資を行うこと」と定義されます。しかし、経営戦略上の意味合いはもっと深いところにあります。
① 民間銀行の「稟議」が通りやすくなる
年商数億円規模の企業であっても、新規事業や大型設備投資に対するプロパー融資(保証協会なし)は、銀行側にとってリスクが高く、稟議のハードルが上がります。
ここに公庫が入ることで、銀行は「公庫(国)が事業性を評価してリスクを取っている」というお墨付きを得られます。
結果として、単独では難色を示された案件でも、「公庫が半分持つなら、当行もプロパーで残りを出しましょう」という着地が可能になります。
② 「加重平均金利」の引き下げ
民間銀行の金利が上昇局面にある昨今、公庫の固定金利(特に特別貸付などの優遇金利)をミックスすることで、全体の調達コストを抑制できます。
例えば、総額1億円を調達する場合、全額を変動金利で借りるよりも、5,000万円を公庫の固定低金利で組むことで、将来の金利上昇リスクをヘッジしつつ、足元の支払利息を抑えることが可能です。
③ 「借入期間」の長期化
民間銀行は、運転資金の融資期間を「5年以内」としたがることが多いですが、公庫は「7年〜10年」といった長期設定に柔軟です。
協調融資では、公庫の期間に合わせて民間側にも「期間の協調」を要請できるケースがあります。返済期間が伸びれば、月々のキャッシュフローは劇的に改善します。
2.【ケーススタディ】協調融資で1.5億円を調達した事例
私が過去に財務支援に入らせていただいた、ある製造業(年商約8億円)の事例をご紹介します。
※守秘義務の関係上、業種や数値を一部加工していますが、実務のプロセスは事実に即しています。
背景と課題
A社は新工場の建設とライン増強のため、総額1.5億円の資金を必要としていました。しかし、メインバンク(地銀)からは「保全(担保)が不足しているため、プロパーでは5,000万円が限界。残りは保証協会付きでお願いしたいが、協会枠も埋まりつつある」と渋い回答でした。
協調融資スキームの提案
そこで我々は、公庫の「中小企業事業」の窓口を活用し、以下のスキームを構築しました。
- 総所要額:1.5億円
- 公庫(中小事業):6,000万円(期間10年・固定)
- メインバンク(地銀):5,000万円(期間7年・プロパー)
- サブバンク(信金):4,000万円(期間7年・保証協会付)
成功のポイント
この案件の肝は、「公庫にメインバンクと同じ目線(プロパー同等)でリスクを取ってもらったこと」です。
公庫が6,000万円という大きなリスクを取る姿勢を見せたことで、メインバンクは「メインとして恥ずかしい対応はできない」と態度を軟化させ、プロパー枠の拡大に応じました。
結果として、A社は担保をこれ以上差し出すことなく、フル金額での調達に成功。さらに、サブバンクである信金を巻き込むことで、将来的な取引分散の足がかりも作りました。
3.実務の現場から:審査を通過させるための「段取り」
協調融資はメリットが大きい反面、調整コストは膨大です。
「公庫」と「民間」、それぞれ異なる審査基準を持つ組織を同時に動かさなければなりません。現場でよく起こるトラブルとその対策をお伝えします。
「同時実行」にこだわりすぎない
理想は「同日に着金(融資実行)」ですが、実務上は公庫と民間銀行の審査スピードにズレが生じます。 無理に合わせようとすると、遅い方に足を引っ張られて全体の資金繰りが狂うことがあります。
【対策】
我々が支援する場合、あえて「条件付き承諾」を狙います。
公庫から「民間銀行から〇〇万円の融資決定が出れば、公庫も実行します」という内諾を先に取り付け、その内諾書を持って民間銀行の審査をプッシュする、というドミノ倒しのような進め方が最も確実です。
民間銀行担当者から、公庫へ協調を打診してもらう
企業経営者から公庫に協調をもちかけるよりも、まずは、民間銀行に融資の依頼をして、金額等大きければ、担当者に「公庫との協調融資はできないでしょうか?○○さんより、公庫に話を進めてもらえませんか?」と伝え、民間銀行の担当者から公庫の担当者に話を持ち掛けてもらう方が、スムーズにしかも実現可能性も高くなると、これまでの経験を踏まえると感じております。
経営計画書は「翻訳」して伝える
公庫は「政策的意義(雇用維持、新事業など)」を重視し、民間銀行は「返済能力(保全、実績)」を重視します。
提出する事業計画書は一本ですが、面談時のプレゼン内容は相手に合わせて微調整が必要です。
- 対 公庫:「この投資によって地域経済にどう貢献できるか、業界の課題をどう解決するか」を熱く語る。
- 対 銀行:「キャッシュフローがどう回り、保全率がどう改善するか」を冷静に語る。
この使い分けができないと、「夢ばかり語る社長(銀行評価NG)」や「数字だけで情熱がない社長(公庫評価△)」になってしまいます。
4.協調融資を進める詳細スケジュール
年商数億規模の企業であれば、以下のタイムラインを想定して動く必要があります。単独融資よりも1ヶ月〜1.5ヶ月余分にかかると見てください。
- 1ヶ月目:資料作成と事前相談
- 試算表、資金繰り表(向こう1年分)、事業計画書の策定。
- メインバンクと公庫それぞれに「協調融資を検討したい」と打診。
- ★ここでどちらかの担当者が「面倒くさい」という顔をしたら、認定支援機関(コンサルタントや税理士)を間に入れて調整役を任せるのが無難です。
- 2ヶ月目:本審査・面談
- 公庫面談、銀行本部審査。
- 双方の担当者同士で情報交換を行ってもらう(「情報交換同意書」の提出が必要)。
- 3ヶ月目:内諾・契約・実行
- どちらか一方が先行して内諾を出し、もう一方が追随する形で決裁。
- 金銭消費貸借契約の締結 → 着金。
5.よくある質問(FAQ)
Q. 業績が一時的に悪化していますが、協調融資は可能ですか?
A. 可能です。むしろ、業績回復のための前向きな資金(「経営改善貸付」など)であれば、公庫がリードして民間銀行を支える形での協調融資が組成されるケースが多々あります。ただし、精緻な経営改善計画書が必須となります。
Q. メインバンクに黙って公庫に申し込んでもいいですか?
A. 協調融資を前提とするなら、絶対にNGです。協調融資は信頼関係がベースにあるため、隠れて動くと「抜き打ち」のような印象を与え、銀行側の心証を著しく損ねます。初期段階で「今回は金額が大きいので、公庫さんとの協調を考えています」とオープンに相談すべきです。
Q. 公庫と銀行、金利は統一されますか?
A. されません。それぞれ独自の審査基準で金利が決定されます。公庫は固定金利、銀行は変動金利となるケースが多く、結果として全体のリスクバランスが取れた借入となります。
編集後記:資金調達は「デザイン」する時代へ
かつてのように「銀行にお願いして貸してもらう」時代は終わりました。
これからの経営者は、公庫と民間銀行の特徴を理解し、自社の成長戦略に合わせて最適な融資ポートフォリオを自らデザインする必要があります。
協調融資は手間がかかりますが、そのプロセスを通じて得られる「銀行団との強固な信頼関係」は、数千万円のコスト削減以上に、貴社の永続的な資産となるはずです。
もし自社だけでこの調整を行うのが難しいと感じた場合は、銀行交渉に長けた専門家の手を借りることも一つの経営判断です。最適なチームを組んで、次の成長ステージへの資金を獲得してください。