
【監修者プロフィール】
合同会社スタイルマネジメント 佐藤恵介
経済産業省 認定経営革新等支援機関
『資金繰り表作成&活用マニュアル』マネジメント社 2025年11月 共同著者
資金繰り改善、銀行対応(資金調達)、経営計画書作成、売上・利益改善などと支援する財務コンサルタント

『資金繰り表作成&活用マニュアル』
2025年11月 マネジメント社より共同出版
Amazonにて発売中
「メインバンクはどこにすべきか?」
「都市銀行(メガバンク)の方が、対外的な信用があるのではないか?」
企業の成長フェーズにおいて、多くの経営者がこの問題に直面します。特に年商が数億円から10億円の壁を超えようとする時期、金融機関の選び方は、その後の資金調達力、ひいては企業の生存率を大きく左右します。
私は長年、財務コンサルタントとして多くの企業の資金繰りを支援してきましたが、結論から申し上げます。年商10億〜30億円規模を目指す企業にとって、最も強力なパートナーとなり得るのは「地方銀行(地銀)」です。
本記事では、教科書的な定義だけでなく、現場の最前線で見てきた「生きた情報」をもとに、地方銀行の本質的な機能と、経営者が押さえるべき活用術を解説します。
1.地方銀行(地銀)の定義と立ち位置
まずは基礎知識の整理です。地方銀行とは、特定の地域を営業基盤とし、地域経済のネットワーク(地元企業、自治体、個人)に深く根ざした銀行のことです。
一般的に「地銀」と呼ばれるものには、実は2つの種類があります。
- 地方銀行(第一地銀): 全国地方銀行協会に加盟。規模が大きく、県内トップシェアを持つことが多い。(例:横浜銀行、千葉銀行、福岡銀行など)
- 第二地方銀行(第二地銀): 第二地方銀行協会に加盟。かつての相互銀行が転換したもの。第一地銀より規模は小さいが、より小回りの利く営業が特徴。
なぜ「地銀」が重要なのか
地域金融機関には「リレーションシップバンキング(地域密着型金融)」という使命があります。決算書の数字だけで判断するのではなく、経営者の資質や事業の将来性、地域での評判といった「定性情報」を加味して融資判断を行う機能です。これが、システム的な審査が中心のメガバンクとは大きく異なる点です。
2.徹底比較:メガバンク vs 地方銀行 vs 信用金庫
経営者にとって重要なのは「自社の規模で、どこが一番親身になってくれるか」です。以下に、実務的な視点での比較表を作成しました。
| 特徴 | メガバンク | 地方銀行 | 信用金庫 |
| 主な顧客層 | 上場企業、年商数十億以上 | 年商数億~中堅企業 | 個人事業主、年商数億 |
| 営業エリア | 全行・海外 | 特定都道府県、近隣 | 特定の市町村に限定 |
| 融資スタンス | 財務データ重視 | 事業性・定性面も加味 | 相互扶助、人物重視 |
| 対応スピード | 本部決済のため時間がかかる場合も | 支店長決済枠などで柔軟 | 比較的早い |
| 貸出金利 | 最も低い | 標準的~やや低め | やや高め |
| 海外展開支援 | きわめて強い | 上位銀行は対応可 | 外部機関と連携が必要 |
コンサルタントの視点:「空白のゾーン」を埋める存在
年商が1億円を超えてくると、信用金庫の貸出限度額では資金ニーズを満たせないケースが出てきます。一方で、メガバンクの担当者が足繁く通ってくれるには、年商規模がまだ足りない(相手にされにくい)。
この「信金では手狭だが、メガにはまだ早い(あるいは相手にされない)」という成長企業の受け皿として、地方銀行はベストな選択肢となります。
3.【実録】現場で見た「地銀の力」活用事例
ここからは、私が実際に現場で目の当たりにした、地方銀行ならではの強みが発揮されたケースをご紹介します。(※守秘義務の観点から、一部の業種や地域、企業名は伏せています)
事例①:雨の日に傘を差し出した「定性評価」の力
(製造業・年商5億円・関東エリア)
ある部品メーカーA社は、主要取引先の生産調整により、一時的に売上が20%ダウンしました。決算書だけを見れば「赤字転落・債務超過寸前」です。
当時取引していたメガバンクからは「これ以上のプロパー融資は難しい。返済条件の変更(リスケ)も視野に」と、事実上の引導を渡されかけました。
しかし、以前から付き合いのあった地銀の支店長は違いました。
「A社の技術力は、EV(電気自動車)シフトが進めば必ず再評価される。今は耐える時期だ」
そう判断し、本部の審査部を説得。運転資金の追加融資を実行しただけでなく、地元のビジネスマッチングを活用して、新規の取引先(非自動車分野)を紹介してくれたのです。
3年後、A社はV字回復を果たしました。あの時、数字だけで判断しない地銀の支援がなければ、今のA社はありません。
事例②:シンジケートローンの組成(年商20億円の壁)
(物流業・年商15億円・関西エリア)
事業拡大のため、大型の物流センター建設を計画していたB社。必要資金は8億円。
1行で抱えるにはリスクが高く、かといって複数行をB社社長が自ら回って調整するのは困難でした。
そこでメインの地方銀行が「アレンジャー(幹事銀行)」となり、近隣の第二地銀と信用金庫を束ねて「シンジケートローン(協調融資)」を組成しました。
地銀には、このように「地域の金融機関を取りまとめ、大きな資金需要に応える」というコーディネーターとしての機能もあります。これは、単独行動を好むメガバンクや、規模の小さい信金には難しい芸当です。
4.エリア別:日本の主要地方銀行一覧
自社の本社所在地だけでなく、進出先のエリアの有力地銀を知っておくことは重要です。以下は、各地域で強い影響力を持つ主要な地方銀行です。(※順不同、代表的な一行を抜粋)
- 北海道・東北
- 北海道銀行、北洋銀行(北海道)
- 七十七銀行(宮城)、東邦銀行(福島)
- 関東
- 横浜銀行(神奈川)、千葉銀行(千葉)、常陽銀行(茨城)、群馬銀行(群馬)
- 中部・北陸
- 静岡銀行(静岡)、十六銀行(岐阜)、八十二銀行(長野)
- 北陸銀行(富山)、福井銀行(福井)
- 関西
- 京都銀行(京都)、滋賀銀行(滋賀)、南都銀行(奈良)、紀陽銀行(和歌山)
- ※関西みらい銀行(りそなグループだが地銀機能を持つ)
- 中国・四国
- 広島銀行(広島)、中国銀行(岡山)、伊予銀行(愛媛)、百十四銀行(香川)
- 九州・沖縄
- 福岡銀行(福岡)、西日本シティ銀行(福岡)、肥後銀行(熊本)、鹿児島銀行(鹿児島)
5.合併・再編が進む地銀業界とこれからの付き合い方
ニュースで「地銀の再編」や「経営統合」が報じられることが増えました。人口減少による地域経済の縮小や、超低金利による収益悪化が背景にあります。
これは経営者にとって何を意味するのでしょうか?
- システム統合のリスク: 合併に伴い、口座番号の変更やシステム障害が一時的に発生する可能性があります。
- 融資スタンスの変化: 合併によって「審査基準」が厳しい方の銀行に合わせられるケースがあります。「以前は通っていたのに」が通用しなくなるリスクに備え、常に複数の金融機関(一行取引は避ける)と関係を持っておくことがリスクヘッジになります。
- サービスの向上: 規模が大きくなることで、M&Aの仲介や事業承継コンサルティング、海外進出支援など、高度なサービスが受けられるようになるメリットもあります。
6.よくある質問(FAQ)
Q. 創業したばかりですが、いきなり地方銀行と取引できますか?
A. 可能ですが、ハードルはやや高いです。創業期は、日本政策金融公庫や信用金庫の方が親身になってくれるケースが多いです。まずは信金で実績を作り、年商規模が拡大したタイミング(例:年商1億円突破など)で地銀へアプローチするのが王道ルートです。
Q. メガバンクと地銀、両方と付き合うのは失礼ですか?
A. 全く失礼ではありません。むしろ推奨されます。決済機能や海外送金はメガバンク、事業性融資やこまめな相談は地銀、というように機能を使い分けるのが賢い経営者のスタイルです。
Q. 担当者が頻繁に変わるのが悩みです。
A. 銀行員には転勤がつきものです。担当者が変わっても自社の評価が変わらないよう、「会社の強み」や「事業計画」を明文化し、誰が見てもわかる資料(知的資産経営報告書など)として渡しておくことが重要です。
まとめ:地銀を「金庫」ではなく「パートナー」にする
地方銀行は、単にお金を預けたり借りたりするだけの「金庫」ではありません。地域の情報ハブであり、経営課題を解決するパートナーになり得る存在です。
特に年商10億円を目指すフェーズにおいては、地銀の担当者をいかに味方につけ、自社のファンになってもらうかが、資金調達力を最大化する鍵となります。
「自社の決算書だと、どの銀行が最適なのかわからない」
「銀行との交渉がうまくいかず、資金繰りに不安がある」
そのような場合は、一度専門家の視点を入れることをお勧めします。金融機関ごとの「融資の癖」や「好み」を熟知したプロが入ることで、銀行との対話は劇的にスムーズになります。