
【監修者プロフィール】
合同会社スタイルマネジメント 佐藤恵介
経済産業省 認定経営革新等支援機関
『資金繰り表作成&活用マニュアル』マネジメント社 2025年11月 共同著者
資金繰り改善、銀行対応(資金調達)、経営計画書作成、売上・利益改善などと支援する財務コンサルタント

『資金繰り表作成&活用マニュアル』
2025年11月 マネジメント社より共同出版
Amazonにて発売中
「売上計画なんて、結局は『絵に描いた餅』ですよね?」
創業融資の相談に来られる経営者の方から、よくこんな言葉を聞きます。
確かに、未来のことは誰にもわかりません。しかし、数多くの事業計画書を精査し、金融機関との交渉に同席してきた私の経験から申し上げると、売上計画は「予言」ということではなく「行動の宣言」と言えます。
銀行や投資家などの資金の貸し手は、計画の数字が当たっているかどうかを見ているのではありません。「その数字を作るためのプロセスが、どれだけ解像度高くイメージできているか」を見ています。
本記事では、教科書的な計算式だけでなく、実際に私が現場でアドバイスしている「銀行が貸したくなるロジックの組み立て方」を、守秘義務に配慮しつつ、実例を交えて解説します。
なぜ「売上計画」が事業計画書の心臓部なのか?
事業計画書には、仕入計画、人員計画、投資計画、資金繰り計画など多くの要素がありますが、その全ての起点となるのが「売上計画」です。
売上の数字が10%ズレれば、必要な仕入れも変わり、採用すべき人数も変わり、最終的に手元に残る現金(キャッシュフロー)は大きく変動します。特に銀行の融資担当者は、ここを厳しく見ます。なぜなら、売上が計画通りにいかなければ、貸したお金が返ってこないからです。
多くの計画書が「審査落ち」する理由
私がこれまでに見てきた「残念な計画書」には、ある共通点があります。それは、「希望的観測」で数字が作られていることです。
- 「市場規模が大きいから、このくらいは売れるはず」
- 「とりあえず月商100万円を目指す(根拠なし)」
- 「毎月10%ずつ成長する(施策なし)」
これらはすべて「願望」です。プロが見たいのは「願望」ではなく、論理的に積み上げられた「根拠」です。では、どうすればその根拠を作ることができるのでしょうか。
説得力が劇的に変わる!売上計画の「分解」メソッド
説得力のある売上計画を作るための鉄則は、「因数分解」です。
「売上=単価×数量」という式は基本ですが、これだけでは不十分です。ビジネスモデルに合わせて、アクション可能なレベルまで分解する必要があります。
【レベル1】基本の分解
売上 = 客単価 × 客数
これではまだ粗すぎます。「客数をどう増やすの?」と聞かれたときに答えに窮してしまいます。
【レベル2】マーケティング視点での分解
売上 = ( 既存顧客 + 新規顧客 +離脱顧客 ) × 単価
ここまで分解すると、「新規をどう獲るか」「既存をどう維持するか」という施策の話ができるようになります。
【レベル3】業種別・プロの分解(ここを目指す)
ここからは、私が実際のコンサルティング現場で使用している分解ロジックの一部をご紹介します。
A. 店舗ビジネス(飲食店・小売・整体院など)
売上 = 席数 × 回転数 × 稼働率 × 客単価
- ※「満席」はあり得ないので、稼働率(例:70%)を現実的に設定するのがコツです。
B. BtoBビジネス(受託開発・コンサル・卸売など)
売上 = リード数(見込み客) × 商談化率 × 受注率 × 平均単価
- ※「何件アポを取れば1件決まるか」という歩留まり(CVR)が審査の肝になります。
C. Webサービス・SaaS(サブスクリプション型)
売上 = PV数 × CVR(登録率) × LTV (顧客生涯価値)
- ※解約率(Churn Rate)を考慮するとより良いです
【実践編】失敗しない売上計画の作り方 5ステップ
いきなりExcelを開いて数字を入れ始めるのはNGです。以下の手順で思考を整理してから計算に入りましょう。
STEP1:トップダウンで「必要な売上」を知る(損益分岐点)
まず、「最低限いくら売らないと会社が潰れるか」を計算します。家賃、人件費、そして「借入金の返済額」をカバーできる売上高です。これを下回る計画は、融資においては論外となります。
STEP2:ボトムアップで「積み上げ可能な売上」を計算する
次に、現場レベルで「現実的に可能な数字」を積み上げます。
「営業マンが1日3件訪問して、成約率が10%なら、月に〇〇件が限界」といった物理的な限界値を直視します。
STEP3:ギャップ分析と施策の立案
STEP1(理想)とSTEP2(現実)には、必ず乖離(ギャップ)が生まれます。ここが経営者の腕の見せ所です。
- 「単価を上げるために付加価値をつける」
- 「Web広告を打ってリード数を増やす」このギャップを埋めるための具体的なアクションプランこそが、事業計画書の「本文」となります。
STEP4:季節変動(季節指数)を考慮する
ビジネスには波があります。例えば、あるクライアント(アパレル小売)の事例では、「2月と8月(ニッパチ)」の売上をあえて30%低く見積もり、逆に12月を高く設定しました。
「毎月同じ売上」の計画書を見ると、銀行員は「この社長は業界の常識を知らないのではないか?」と不安になります。あえて凹凸をつけることが、リアリティ(信用)を生みます。
STEP5:松・竹・梅(3パターン)のシナリオを作る
これが最も重要なテクニックです。
- 強気プラン(松):すべてが上手くいった場合
- 現実的プラン(竹):通常の見込み(これをメインにする)
- 保守的プラン(梅):最悪のケース(それでも返済が可能であることを示す)
融資審査では、特に「梅(最悪のケース)」でも返済能力があるかが見られます。「リスクを想定できています」というアピールにもなるため、必ず複数パターンのシミュレーションを用意しましょう。
【事例公開】業種別・売上シミュレーションの実例
ここでは、過去に私が支援した事例をベースに、特定の企業が特定できないよう数値を調整した「モデルケース」をご紹介します。ロジックの参考にしてください。
ケース1:郊外型のカフェ(20坪・25席)の場合
多くの創業者が「ランチもディナーも満席」という計画を立てがちですが、銀行はシビアです。以下のように平日・休日、時間帯で細かく分けました。
- 平日ランチ:25席 × 1.5回転 × 1,200円 = 45,000円
- 平日アイドルタイム:25席 × 0.4回転 × 800円 = 8,000円
- 平日ディナー:集客が難しいため、あえて低く見積もる(ここがポイント)
- 土日祝:客単価を1,500円に設定し、回転数を上げる
★ポイント:
「雨の日もあれば、体調を崩して店を開けられない日もあるかもしれない」。そう仮定し、月間の営業日数をフル稼働の30日ではなく、25日で計算して提出しました。この「保守的な姿勢」が評価され、満額融資に繋がりました。
ケース2:BtoB向けシステム開発会社の場合
このケースでは、「労働集約型」の限界が鍵でした。
- エンジニア単価:月80万円
- 稼働可能人数:3名(社長含む)
- 稼働率:80%(営業活動や事務作業があるため100%にはしない)
売上上限 = 80万円 × 3名 × 80% = 192万円/月
★ポイント:
当初、社長は「月商500万円」を目指していましたが、人員計画と矛盾していました。「いつ、どのタイミングで採用し、教育期間を経ていつから戦力化するか(売上に寄与するか)」をタイムラインで図示したことで、計画の整合性が取れました。
審査担当者はココを見る!NGな売上計画の共通点
最後に、銀行員や投資家が「この計画は怪しい」と判断するレッドフラグ(危険信号)をお伝えします。
- 右肩上がりが「直線」すぎるビジネスには必ず「踊り場(停滞期)」があります。定規で引いたような一直線のグラフは、思考停止とみなされます。
- 売上と経費が連動していない「売上は倍になるのに、広告宣伝費や旅費交通費が横ばい」というのは不自然です。売上獲得に必要なコストが計上されているか確認しましょう。
- 根拠を聞かれて「精神論」で答える「なぜ来月、売上が20%伸びるのですか?」という質問に対し、「死にものぐるいで営業します」はNGです。「アポイント数が先月の1.5倍確定しているからです」と数字で答えましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 開業前で実績がゼロです。どうやって根拠を作ればいいですか?
A. 「外部データ」と「足を使った調査」を組み合わせます。
業界団体が出している平均データや、商圏分析データを使用します。さらに強いのは「実測」です。近隣の競合店の前に立ち、平日・休日の客数をカウンターで数えてください。「競合店は1日50人入っていた。うちは後発だが差別化要因があるので、その8割の40人は堅い」と言えれば、それは立派な根拠になります。
Q. 融資用と社内目標用で、数字を変えてもいいですか?
A. はい、むしろ分けるべきです。
社内メンバーの士気を高めるための「ストレッチ目標(高めの目標)」と、金融機関に説明するための「必達目標(堅実な計画)」は別物です。ただし、この2つ(トップダウンとボトムアップ)をどう接続するかという説明ロジックは持っておく必要があります。
まとめ:売上計画は「経営者の意思」である
売上計画の作成は、面倒な計算作業ではありません。「自分はこの事業でどうやって勝つのか」という戦略を、数字という共通言語に翻訳するクリエイティブな作業です。
銀行が貸したくなる企業とは、素晴らしいアイデアを持っている企業ではなく、**「リスクを直視し、それを乗り越える道筋(ロジック)を冷静に説明できる企業」**です。
もし、ご自身の作った計画書に不安がある場合は、ぜひ一度専門家の目を入れることをお勧めします。数字の整合性をチェックするだけで、融資の成功率は劇的に変わります。